第7話 嫉妬 ※
異能の衆、奇跡の子、レイル王子、ロベルトを知っている様子だったカゼイン。
キリトは混乱した頭を抱えた。時刻が遅くなったからひとまず解散だと言われて、自分の部屋に戻るとベッドに寝転んだ。
ベッドで寝るのは実に二十日振りだった。旅の疲れと新たな出会いの疲れがどっと出て、キリトは間も無く眠りに落ちた。
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窓から朝日が差している。泥の様に眠った後で、意外に頭はスッキリしていたが、首筋を虫に刺されたようで痒い。
キリトが左の首筋を掻きながら宿の階段を降りて行くと食堂前の廊下にサガンが居た。
「どうしたの?」
サガンに聞かれてキリトは答えた。
「虫に刺されたみたいで、痒くて。」
「どれ、ちょっと見せてみて。」
サガンは身を屈めてキリトの首筋に顔を近づけた。確かに少し赤くなって腫れている。今朝はまだ束ねていなかったサガンの長い赤毛が肩から落ちてキリトに掛かった。
「失礼。」
と言ってサガンは髪をかき上げた。どうもキリト相手だと女を相手にする様に応対してしまう。
「炎症を抑える塗り薬を持っているから後で渡すよ。」
せっかくの白皙の肌に跡でも残ったら大変だと思いながらサガンは言った。
窓から入る光を受けて、キリトの長い睫毛の下の黒目が濡れた様に光っている。白くなめらかな肌の華奢な首筋に虫でなくとも吸い寄せられてしまいそうだった。
「レイルより先にあなたに出会いたかった。」
思わず口から突いて出た言葉に驚いて口を手で覆う。
「今なんて?」
はっきり聞こえなかったのか、キリトは首を傾げている。
「何でもない。食堂に行こうか。レイルもすぐ降りてくるよ。」
サガンはそう言ってキリトを食堂へと促した。
食堂のテーブルにつき、買い込んだ食料を取り分けて食べる。食事中はレイルもサガンも言葉少なだった。
旅の疲れが出たのだろうか。キリトはそう思いながら、無理に話しかけることもせず食事を詰め込んだ。レイルがキリトの首筋を射るように見ていることに気づかずに。
「しばらく出掛けてくる」
と言ってレイルとサガンは出掛けて行った。
カゼインのところに行くのだろうか。色々と聞きたい事があったが、今朝の様子ではなんとなく聞き辛かった。
夕方近くになるころ、レイルは一人で宿に帰ってきた。
「あれ、サガンは?」
と聞くキリトに、レイルは苛立った様にキリトの腕を掴んだ。
部屋のドアを乱暴に開けベッドにキリトを押し倒すと、驚いてレイルを押し除けようとするキリトの両手を一まとめにして片手で頭上に縫い止めた。
「サガンのことが気になる?それとも、王家に名を連ねる事が面倒になったのか。」
ギリ、とキリトを拘束する手に力を込めた。
キリトが痛みに顔を顰めるのも構わず口付ける。
渡さない、とレイルは思った。
「ふあ、んっ」
キリトの声に煽られるように更に深く口付け、貪る様に舌を差し込んだ。唾液を絡ませて思う様口内を蹂躙する。唇を離すと唾液が糸を引いた。
「何の、こと?なんでこんな…」
そう言うとキリトは荒い息をついて涙目になってレイルを睨んだ。口付けを受けて赤くなった唇が唾液に濡れて怪しげに艶めく。
キリトの問いには答えずレイルは低い声で唸った。
「そんな目で、俺を煽っているのか。」
キリトの上着の中に手を入れ、滑らかな肌に手を這わせると、胸の飾りを指でつねった。
「ひあっ」
「感じている顔だな。」
「そんな、こと」
「渡さない、誰にも。」
キリトの首筋に顔を埋めると、レイルは白い肌に一点赤くなっている箇所に歯を立てた。
「あああっ」
キリトの声に煽られて乱暴に下衣を乱し、中に手を入れる。キリトの中心を握り込むと性急に擦り上げた。
「ひ、ひああ」
過ぎた快楽にどうしていいか分からず、キリトの目からは涙が溢れた。
「ひ、く、、ひっく、ひっく」
泣き出してしまったキリトを前に、レイルは愕然とした顔でキリトを拘束していた手を離すと、その手で自分の顔を押さえた。急激に頭が冷えた。
俺は、一体何を。
泣き続けるキリトに掛ける声も思い付かず、レイルは茫然としてキリトの部屋を出ると自分の部屋に戻った。
ベッドに横になったが、とても眠るような気分ではなく、まんじりともせずに夜が明けて空が明るんでくるのを見つめていた。
すると、コンコンとドアを叩く音がした。用心のため音を立てずに剣を抜く。ゆっくりとドアを開けると、青白い顔をしたキリトが立っていた。
まさかキリトの方から訪ねてくるとは思わず、上擦った声が出た。
「その、すまなかった。」
剣を収めてレイルが言うと、キリトは首を振った。
「違うんだ。僕、夢を見たんだ。黒ずくめの男達が襲ってくる。サガンを起こして今すぐ僕についてきて欲しい。」
「夢見の力か?」
「分からない。でも、早く!」
手早く着替えると剣を下げてサガンを起こしに行った。
「なんだと、夢見の力か?」
同じ事を言うサガンを急かして、キリトに導かれるまま宿の裏口から外に出た。
途端に三人が泊まっていた宿の二階から、男たちの怒声が聞こえてきた。
「おい、居ないぞ。どこに行った!」
「探せ!まだ近くに居るはずだ!」
三人は顔を見合わせると、早朝の街道を走って逃げ出した。
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