第九話 【憂鬱】と闇医者
「カワイイわ〜‼︎初めまして、凛音ちゃん‼︎わたくしは灰原アリス。二十歳の、闇医者兼科学者よ〜」
「うぐっ⁉︎ひんはん、はふへへ!ひきふぁへきはい(仁さん、助けて!息が出来ない)」
「アリスさん、離れてあげて?苦しそうです」
「あらあ?ごめんなさいね?凛音ちゃん、八重華ちゃん。仁ちゃんも久しぶりね〜!相変わらずイケメンだわ〜」
「ハアハア……死ぬかと思った」
男子の夢、谷間で窒息死をするところだった。私は女子なので全く嬉しくない。
私を窒息死させそうだったのは、藍色の癖のない髪を後ろで三つ編みにした、若葉色の目の女性で、抜群にスタイルが良く、マーメイドラインの漆黒のドレスに白衣を羽織っている。
医者か?と言われたら十人中五人は首を傾げるだろう。動きやすそうじゃないもの。
それにしても、本当に二十歳のお姉さんにしか見えない。本当は五十三歳だそうなのに……。《牡丹連合》は外見詐欺師が多すぎでは無いだろうか?
灰原さんに【強欲】さん。あと、氷宮さんもあの見た目で四十七歳らしいからな。どう見ても三十代前半にしか見えないのに……。
私達三人は今、この灰原さんこと【色欲】さんの研究室に来ている。
闇医者として働いてるという診療所の奥の扉を開けた所にある、様々な色の試薬が置いてある場所で、めちゃくちゃ落ち着かない。
「八重華ちゃんが来たってことは、いつものお薬の事かしら?」
「そうです。えっと、これらがなくなったんですけど……」
「止血剤に、壊死剤に……ちょっと取ってくるわね〜」
「お願いします」
「そうだ‼︎今日は
「「え」」
「じゃあ、お願いね〜」
そんな感じで部屋を出て行った灰原さんと入れ替わりに入ってきたのは、
「お久しぶりだねえ【嫉妬】、【憤怒】‼︎いっやあこの前は生きの良い実験体をありがとうねえ。おかげさまでなんと、この前言ってたクスリが完成したよお‼︎
体験してみる?あ、嫌?何だ残念だなあ。
二人ならどうなるか試してみたかったのにい……なになに、実験体に打ったらどうなったかって?えっとねえ、何人もいたから、とりあえず五人で試したんだけどねえ?みいんな、まず一時間かけてゆっくり全身の骨が溶けていって、その後今度は三十分かけて筋肉が溶けていくんだよお。
途中で死なないのか?うん、大丈夫だよお。その辺はちゃあんと考えてあるんだあ。激痛が続くけど、気絶しないし死なないように作ったよお‼︎
すごい?わあ!ありがとうねえ。ねえねえ【嫉妬】、これ拷問で使わない?
あ、解毒薬はないよお?要らないの?【暴食】が困るから?そっかあ……。
じゃあ、僕は実験に戻るねえ。ん?あ、新人さん初めましてえ。これからよろしくねえ?それじゃ、またあ」
あり得ないほどマシンガントークの男性だった。若葉色の髪にエメラルドの目。
元は白衣だったのかなと思える様々な色の液体で汚れたものを羽織っている。
心なしか赤黒い色が多かった気がするのはきっと気のせいだ。
うん。そうに決まってる。
私がもうツッコミを諦めて現実逃避に専念している間に、彼は奥へと帰っていった。
帰った瞬間、八重華ちゃんが私の方を振り返って肩を掴んで彼について説明してくれた。
「凛音お姉さん、あれが《アンフェル・ラ・モール》の四幹部のうち一人、
「翠蛇は誰彼構わず実験体にしようとするんですよ……。最近は《
「追いかけ回された時の恐怖は忘れない」
仁さんですら恐ろしいというとか、マジでヤバいやつじゃん。
「そんな人が幹部とかしてて良いの?」
「翠蛇は実力はあるので幹部になってますけど、部下はいません。幹部の仕事も大半は
なるほど。その為の犠牲があの小物なお兄さんという事ですか。可哀想に、黙祷を捧げよう。
何となく沈黙が続いてる空間で待つ事数分、
「待ったかしら?ごめんなさいね〜。ええと、これとこれとこれがなくなったって言ってたものよ〜。で、これとこれは試作品ね、使って感想を教えてくれると嬉しいわ〜」
「わかりました。ありがとうございます!」
「いいのよ〜。それと、あと凛音ちゃんが会ってないのは【怠惰】だけでしょう?あの子が拗ねてたわよ?」
「大丈夫です。【傲慢】、氷宮さんも最初だけでちゃんとした挨拶をしてないですから、近いうちに引っ張ってでも本部に連れて来るように【強欲】さんにお願いしてありますから」
「あら、そうだったの?じゃあ、氷宮さんよりも前にあの子の方に連れて行ってあげてね?」
「はい。
「それと、––––––––ね」
「⁉︎……わかりました。前者は仁とも話してから【強欲】さんに伝えておきます。後者は……仁と話してから対応を決めますね」
どうしたんだろう。灰原さんに何かを耳打ちされた八重華ちゃんの表情がいつもより若干固い気がする。
「それじゃあ、またね〜」
「(ペコッ)」
「ありがとうございました‼︎」
「あ、さようならー」
灰原さんが八重華ちゃんに何を言ったのか気になるところだが、取り敢えず二人にならって、さようならと頭を下げておく。
「八重華ちゃん、大丈夫?」
「っ⁉︎……大丈夫、何でもないですよー。さっ、本部に戻りましょうか。
最近は凛音お姉さんの挨拶回りみたいになってますから、この流れで明日は魁斗兄さんのとこに行きますか?」
「う、うん」
「仁もそれでいい?」
「ん」
「なら、明日は魁斗兄さんのとこ行き決定だね?仕事の方は少しだけ期限を伸ばしてもらおう。急ぎのやつだけ受ける方針で【強欲】さんと若林さんに言っとくねー」
触れて欲しくなさそうな八重華ちゃんの反応に、私は踏み込めないまま本部に着いてしまい、解散となった。
「で、何を言われたんだ?取り乱すなんてらしく無い」
「うん、ごめんねー。ちょっと衝撃的すぎて、余裕がなくなったというか……」
凛音が部屋で寝た後の本部の一室で、仁は八重華に聞いた。
仁とも話してから。そう言ってたという事は、少なくとも自分は聞いていいと判断したからだ。
「それがさあ」
『それと、【強欲】は凛音ちゃんがもうちょっと慣れて来たら、《
そしてこれは【怠惰】からの情報だけど……凛音ちゃんの両親を殺した奴と、貴方達の親友を殺した奴、同一人物の可能性が高いらしいわ。気を付けてね』
「って言われたんだ」
「なっ⁉︎」
前者はいい。千斗も知らない《牡丹連合》の秘密。元々、《牡丹連合》全員と顔を合わせても大丈夫そうだったら、凛音さんにも話そうと思ってたから。
「ねえ仁、なんで……今……
指先が、体が震える。
八年。八年だ。ずっと探していた奴の、手がかりが掴めた。やっと、本格的に動ける。
「なんで動いたかはわからない。けど、大丈夫。これは好機だ。手がかりが見つかった……今度こそ、逃がさない」
凛音さんや若林さん達《牡丹連合》の仲間も、千斗を筆頭とした《アンフェル・ラ・モール》の部下達も、この数年で増えた大切な人で、頼りになる仲間達だ。
前は八重華を守るだけで精一杯だった。
もう二度と、私の大切なものを奪わせない。
【正義】の異能を持つ者よ。お前は必ず、私が殺す。
影光の牡丹 風宮 翠霞 @7320
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。影光の牡丹の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます