第八話 【憂鬱】と詐欺師、そして掃除屋

「わあ‼︎お兄ちゃんすごい‼︎」


「もっかい‼︎もっかいやって!」


「ハハッ。じゃあ、お兄さんの手の動きを、よおうく見てて下さいね?」


「「うん‼︎」」


「……凛音殿、どこから突っ込めばいいと思う?」


黒い着物に臙脂色えんじいろの羽織を羽織った金髪猫目の男が、公園で子供達に向かってトランプを出す手品をしている一見平和な光景(?)を見て、私の隣の、毛先に向かって黒から白にグラデーションになっているオシャレな髪の男性は頭を抱えていた。


「三十九歳オジサンの一人称がお兄さんの所から、じゃないですか?」


「だよな。……もう嫌だ、面倒臭い」


私が、所詮他人事だという思考を全面に押し出してそう言うと、隣のオジサンの苦悩は深まったらしい。


可哀想だなあ。←苦悩を深めた張本人


私の隣の男は、【暴食】の二つ名を持つ、若林わかばやし 江青こうせいという名前のおじさんだ。

年齢三十五歳、身長190センチ。腰に大太刀をいた、黒いスーツのズボンに黒いシャツを着崩しているワイルドなイケオジ(八重華ちゃん談)だが、【強欲】さんと共に普段好き勝手するリーダー【傲慢】こと氷宮さんの代わりを務める、《牡丹連合》一の常識人寄りの苦労人(仁さん談)らしい。


私としては、常識人ではなく、常識人という所に、《牡丹連合》らしさを感じざるを得ない。


「二人とも失礼ですねえ。【暴食】、何してるんです?座ってないで立ちなさい。全く、君は僕と【憂鬱】の護衛だろうに」←苦悩を感じさせた張本人


自らのせいで苦しむ同僚にとどめを刺したのは、さっきまで、現在はどこかに行ってしまった子供達とたわむれていた金髪猫目の和服男性。


彼は【強欲】の二つ名を持つ、身長180センチというスラリとした抜群のスタイルを誇る、実年齢三十九歳、見た目二十代前半の詐欺師だ。

ちなみに、この場合の詐欺師は、年齢詐欺という意味と、職業としての詐欺師という意味の両方を持つ。


《牡丹連合》の人達は、二つ名と本名どっちで呼ぶか決まってないので、その時その時の気分や人によってどっちで呼ぶか変わるらしいが、彼は全員を二つ名で呼び、自身も全員から二つ名で呼ばれているので、本名を誰も知らないらしい。


それは《牡丹連合》七不思議の一つなんだとか。

誰だろう。七不思議とか言い出した人。

ぜひ後六つも知りたい。


「掃除屋とかいう血生臭い職業の俺が一番常識人寄りとかいう時点で、もう終わってるよな」


私が今度八重華ちゃんに聞いてみようとか考えてる間に、若干回復した若林さんがボソッと呟いたのに便乗して、私は今までスルーしてた不可解な事象に向き合ってみることにする。


「【強欲】さん、なんでサラッと私が常識人枠から外されてるんですか?」


なんで一般人の私が常識人担当の座を譲られてないんだろう。


「【憂鬱】、自分の立ち位置を自覚していますか?」


「一般人です‼︎」


「元な」


「しかも、【憂鬱】が一般人ムーブしてたのって、【傲慢】に連れて来られてすぐに顔を合わせた一回だけですよね。その三日後に会った時には、もう自他共に認める狂人だったし」


おじさん達、言葉強いよ。

後、【強欲】さんは無意識だろうけど、さっきから時々敬語じゃなくなってるよ。

一応八重華ちゃんと仁さんから聞いてたけど、確かにちょっと可愛いかも。

なんか仲間って認めてくれたみたいで嬉しい。


兎にも角にも、私が胸を張って宣言した内容は一瞬で棄却された。

棄却された理由が納得できる物なのが解せん。


あ、なんで私が愛しい愛しい八重華ちゃんと仁さんコンビと一緒に行動してないかというと、話は昨日にさかのぼる。





「お久しぶりです。【嫉妬】と【憤怒】宛に手紙を預かって来ましたよ」


「……うわ」


「最悪だあああ‼︎……よりにもよって今ですか?【強欲】さん、なんとかなったりしません?」


何週間かぶりに見た【強欲】さんがいつものニコニコ顔で渡した手紙に、八重華ちゃんと仁さんは、露骨に顔を歪めた。


二人は、特に仁さんはあまり分かりやすく感情を表情に出さないので、異能がなくても巻き込まれ体質で、巻き込まれる事件の大きさは小さくなったものの、以前とそう大差ないことを知って凹んでた私は、珍しいものを見て少し回復した。


「無理ですね」


「江青さん」


「仁、今回ばかりは無理だ。今まで放って来た分だと思って諦めろ」


八重華ちゃんの質問を表情を変えずに【強欲】さんが切って捨てたのを見て、仁さんが【暴食】さんに縋るような目を向けたが、即答されていた。


「ハア……仕方ない、行って来ますよ。でも、その間凛音お姉さんを任せてもいいですか?」


「なんでだ?」


「なんでですか⁉︎」


「一つ目は、凛音お姉さんがちょう君やアリスさんとまだ会っていない事。

二つ目は、凛音お姉さんが荒事に向いてない事。

三つ目は、この召喚状が私と仁の二人にしか届いてない事。

四つ目は、私たち二人が江青さんにだったら安心して凛音お姉さんを託せる事。

他にも何個か理由はありますけど、取り敢えずこれだけあれば納得してもらえると思うんですが?」


【暴食】さんと私が思わずと言ったように聞いたのに対して、八重華ちゃんは冷静に理由を述べて、最後に笑顔で


「じゃあ、お願いしますね!」


と言って出かける準備をすると仁さんと共に自室に戻ってしまった。





うん。まあ、仕方はないと思うよ?

八重華ちゃんも仁さんも、ちゃんと後で私に対して【暴食】さんと【強欲】さんについて改めて教えてくれたしね?

理解はしてるよ?


「でも、なんで置いてったの?もう辛い」


「あーうん。……まあ、元気出せ。な?」


私が思い出し凹みしてる姿に何か感じるものがあったんだろう。若林さん【暴食】さんが肩を叩いて慰めてくれた。


優しい。さっき他人事だと放り出しちゃってごめんね。


「はいはい。貴方達が小芝居打ってる間に私達囲まれちゃってますけど、どうするんです?」


小芝居言うなし。

まあ、公園のど真ん中で黒い服の男十人ちょいに囲まれてるのは事実なので、仕方ないとも言う。


「金髪、持ってるデータを渡せ。さもなくば命はな」


「うっせ。そして遅い。お前らアホか?」


命は無いって言おうとしたんだろうなあ。

若林さんがすっごい凶暴な笑みを浮かべながら、大太刀で首をねたけど。


「おいおい、軽い運動にもなりゃしねえ。そんなんで、よくもうちに手ェ出そうとしたなあ」


文字通り血の雨を降らしながら敵の首を手際よく刎ねていく若林さんの姿を見て、思わず敵さんに同情してしまう。


てか、血の雨を降らすのやめて欲しい。臭いし汚い。


「【強欲】さん、私八重華ちゃんから、敵は殺さずに生かして報復するって聞いたんですけど、いいんですか?あの人めちゃくちゃ急所狙って殺してますけど。そして死体を更に四分割とかしてるんですけど」


グロ過ぎ。頭おかしいだろ。

うわ、あれ小腸じゃん。胃も出てるし。きっも。


まあ、あの狂人は置いといて、通称「目には四肢を、歯には首を」事件と私の中で言われてるあの話から、殺さないほうがいいんじゃ無いかと聞く私に、【強欲】さんはニコニコ顔のまま(なんでこの人表情変わってないん?)答えてくれた。


「ああ、それは《牡丹連合うち》にの話ですよ。大抵はこいつらみたいに、誰かに阻止されて、手を出せずに終わります。そうなれば、生かして苦しめるほどでは無いので、殺す事で報復しますね」


うん。ニコニコ顔の人の言うことが怖い。


取り敢えず、《牡丹連合》の中では

生かして報復>殺して報復

の不等式が成り立ってることはわかった。


「おい【強欲】、片付いたからさっさと交渉行くぞ」


考え事をしてる間に、死体が跡形も無くなっていた。聞くに、それが【暴食】さんの異能らしい。つまり、あの人外の戦闘能力は素の能力だと言うことか。


「わかったよ。こいつらが僕から取り返そうとしたデータを使って、ちゃんと交渉してやろう」


怖いなあ。流石、会う度に

「僕の仕事は相手の利益を最小に、僕らの利益を最大にする事だよ」

と言ってくる人間の言うことは違う。


「【憂鬱】もついて来いよ。そのために今日は冥の黒服で来てもらってるんだから」


さっきまで笑顔で人を斬ってたのに、めっちゃ冷静に指示出してるじゃん。


「……はーい」


さっさと二人との仕事を終わらせて、八重華ちゃんと仁さんと会いたいなあ。

私はそんな事を考えながら二人について行った。


そして、想像の十倍以上は【強欲】さんの「交渉」は怖かった。もう二度とついて行きたくはない。


まあ、【暴食】さんにそう言ったら今度【憤怒】つまり仁さんとの模擬戦を見せてやるからそれで手を打ってくれと言われた。流石面倒見のいいおじさんである。


え?もちろん了承しましたよ?

それを聞いた仁さんには首を絞められたけど。








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