第2章〜Everything Everyone All At Once〜⑭
「どうやら、罪の意識は十分に感じているみたいだし、これからの行動には気をつけてもらいたいね。捜査官の立場としては、いま言えることはこれくらいかな?」
オレを励まそうとしてくれているのか、ゲルブは、そんな風に語るが、自分のしでかしたことを考えると、まだしも彼らの法律で裁かれた方が良かったとも思える。
彼らのセカイに刑務所というものがあるのかはわからないし、どんな通貨が流通しているのかも不明だが、裁判での判決に従って、服役なり罰金なりを課してもらった方が、明確に罪を償ったと意識することができる。
しかし、そうした刑罰などが課せられないのであれば、オレは、どんなカタチで自分の罪を償えば良いのだろう――――――?
しばらく一言も発しないまま、そんなことを自問自答していると、オレのようすに違和感を覚えたのか、ブルームが声をかけてきた。
「どうしたの
彼女の言葉には、ただうなずくしかない。
そして、オレは、うめくように言葉を発した。
「オレは……どうすれば、罪をつぐなえるんだ……?」
すがるように、捜査官を名乗るふたりの顔を見上げると、彼らが互いに顔を見合わせるのがわかった。
困ったような表情で苦笑するゲルブに対して、ブルームは顔色を変えず、澄ましたままの表情だ。
そして、彼女は、その表情のまま、こんなことを提案してきた。
「
ブルームの言葉に反応し、オレは視線を彼女に向ける。
同時に、視界のスミで、ゲルブが、
(おいおい……急にナニを言い出すんだ……)
という表情をしているのがわかった。
「私たちの現行法では、たしかに、
「――――――オレでも、アンタ達の役に立つことができるのか?」
ブルームの言葉に対して、藁にもすがる想いでたずねると、彼女は微かな笑みを浮かべて答えた。
「えぇ、キルシュブリーテが、このセカイを去ったことで、
「そ、そうか……」
彼女の言葉で、オレは救われたような気分になる。
なにか、目標のようなものができるだけでも、他人に害を及ぼすことしかなかった、自分のトリッパーとしての存在に意義が見いだせる。
「罪悪感につけ込んで、捜査に協力させるなんて、相変わらずブルームは、人が悪いなぁ……」
ゲルブは、あきれたような表情で、そんな感想を口にするが、当のブルームは、そのことをまったく意に介していないようだ。
「あら、人が悪いなんて心外ね……私はただ、
「モノは言いようだね……」
ヤレヤレ……と肩をすくめがら苦笑するゲルブだが、オレは、ありがたくブルームの提案に乗らせてもらうことにした。
「ありがとう、ブルーム、ゲルブ……オレで良かったら、アンタ達の捜査に協力させてくれ」
そう言って頭を下げると、ふたりは、
「えぇ、もちろん! 歓迎するわ」
「オーケー! あまり無茶はしないようにね」
と、それぞれに、
そして、ブルームは、さらに、こんな申し出をしてきた。
「協力の申し出に感謝して、貴方には、このアイテムを預けておくわ」
そう言って、彼女が手渡してきたのは、ペンダントのように首に下げている木製の器具だった。
それは、キルシュブリーテが、
「これは……?」
木製の器具を受け取り、説明を求めると、ブルームは、片手に収まる大きさの機器についての解説を淡々と始める。
「これは、コカリナという名前の楽器なんだけど、
時間を止められる――――――。
やはり、あの瞬間、感じたことに間違いはなかったようだ。
しかし、相手側が特殊な機器で、疑似催眠なる不思議な術を使ったり、捜査官は、時間を停止する器具を持っていたり、とキルシュブリーテやブルームたちの住んでいるセカイの技術力は、いったいどうなっているんだ?
そんなことを考えていると、その想いが表情にあらわれたのか、ブルームが、自らの言葉を補うように、不思議なアイテムに関する解説を付け加えた。
「キルシュブリーテの使っていたデバイスは、私たちのセカイの技術で作られたものだけど、このコカリナは、実は、私の祖父が東欧に居た頃に知人から、いただいたモノなの。私たちのセカイでも、まだ解明されていない技術で作られているようなんだけど、捜査に有用ということで、連邦政府に許可を得て使わせてもらっているのよ」
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