第1章〜ヒロインたちが並行世界で待っているようですよ〜⑥

 ルートA・白井三葉しろいみつばの場合


 白井三葉しろいみつばは、小学5年になったばかりの春に、オレと冬馬の通う、あいらんど小学校に転校してきた。

 当時の自分たちは小学生だったので、あまり認識はしてなかったのだが、三葉みつばの母親は、大手歌劇団出身の舞台女優なのだが、週刊誌で婚外恋愛が報じられた演出家の三葉みつばの父親と別居し、故郷であるこの地方に引っ越してきたそうだ。


 動画投稿サイトにアップした歌唱動画がバズりまくり、現役高校生シンガーとしてだけでなく、同世代のインフルエンサーとして多くの企業案件を抱える有名人になってしまった今の彼女からは想像もできないが、オレと出会った頃の三葉みつばは、どちらかと言うと、控えめな性格だった。


 それは、転校してきたばかりの慣れない環境ゆえかも知れないし、両親の別居という精神的ショックがあったからかも知れないが、引っ込み思案な性格の彼女に、色々なことにチャレンジして見るよう提案したのは、オレだった。


 オレの自宅の二軒となりに引っ越してきた三葉みつばとは、親友の冬馬とうまが習い事などで一緒に遊べないときに、よく自宅のカラオケルームに招いて遊んでいたのだが、その歌唱力に惹かれて、小学校で行われるオープン・スクールの行事で舞台に立つことをオレが薦めたあたりから、彼女は積極的な性格に変わったような気がする。


 彼女の持つ歌声でなく、努力を惜しまない向上心や、それを表には見せずに振る舞う性格に惹かれていることを自覚したのは、思春期になってからだ。


 ただ、同時に小学生の頃は、同じような立ち場だった彼女が、今ではすっかり見違えるような存在になってしまったことに、オレは、どこかで鬱屈した想いを抱えるようになった。


「いまさら、自分なんて相手にされないだろう……」というあきらめと、「それでも、三葉みつばの気持ちを少しでも自分に振り向かせたい……」という想いを抱いたまま高校生になり、多忙になった彼女とは、少しづつ距離を感じるようになっていた。


 そして、『セカイ・システム』で、ご近所のセカイを渡り歩くうちに、

 

「いま、自分が暮らしているセカイでは難しくても、他のセカイなら、もしかしたら――――――」


そんな想いに至るまで、大して時間は掛からなかった。

 

 その頃から、オレは、他の惑星ほし白井三葉しろいみつばの動向を探ることを目的にする多くなった。


 いくつかのセカイでは、インフルエンサーとなった三葉みつばが、有名動画配信者や国境を越えてK−POPの男性アイドル交際しているという、目を背けたくなるような事実を突きつけられたのだが、そうしたセカイは、、さまざまなセカイの彼女が、自身の動画チャンネルで発信する恋バナや恋愛アドバイスから、白井三葉しろいみつばの恋愛観を探り、有効なアプローチの方法を考案する。


 たとえば、別のセカイの彼女は、自身の動画配信用チャンネル『クローバー・フィールド』で、こんな恋愛アドバイスを配信していた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「それでは、『彼氏にしたい男子の特徴』を発表していきたいと思います! 拍手〜」


 ――――――たくさんのメッセージ、ありがとうございました。


「今回は、たくさんいただいたご意見の中から、厳選したモノを発表します! その中でもというわけで、さっそく、《ミンスタグラム》のアカウントに届いたメッセージを紹介していきましょう!」


 ――――――「一緒にいると楽しいね」と言ってくれる男子


「わかる! これ、重要なポイントだよね〜。この言葉は、男女ともに言われて嬉しい言葉だと思うな〜。それに、付き合ってからも、そうだし、なんなら、気になる相手とお付き合いする前にも有効なフレーズだから、この動画を見てる男子は、注目!」


 ――――――このちゃんねる、男性の視聴者は、少ないと思うけど……(笑)


「男子の視聴者が少ない? だ・か・ら・こ・そ、ここで、他の人たちと差がつけられるってものじゃない?」


 ――――――じゃあ、男子は、実際、どんなシチュエーションで、このフレーズを使えばいいのかな?


「これは、もう実際に二人で会う前から勝負は始まってるの!」


 ――――――勝負…………ってナニ(笑)?


「いや、『勝負って、なんだ?』って感じだけど、相手を自分の虜にするための駆け引きは、一緒に会う前でもできることがあるから……」


 ――――――たとえば?


「たとえば、他の人たちが一緒でも、二人きりで出かける時でも良いけど、出かける前に必ず相手に、『今日は楽しみだね』って、LANEのメッセージを送っておくの」


 ――――――実際に会ってからは?


「実際に一緒にいる時は……二人が付き合う直前とかの雰囲気なら、会話が盛り上がった直後に、『あ〜、やっぱり、キミと話すの楽しいな〜』って、ポツリと言葉を漏らすとかね。こんな風に言われたら、『えっ、そんなに楽しいって思ってくれてるの? それって……もうわたしのこと好きじゃん……』ってなるよね? ね?」


 ――――――他には、どんなシチュエーションで使うの?


「あとは、二人で出かけたあと、家に帰ってから、『今日は楽しかった。ありがとう』ってメッセージを送ること。二人で会う前、会ってる最中、帰って来たあと……最低この三回、『キミといると楽しい』ってことをカタチにするだけで、相手からの好感度が上がる魔法の言葉だと思ってくれてイイ!」


 ――――――なんだか、あざとい系女子の手口みたいだね(笑)?


「こんな風に説明すると、あざとい女子みたいな方法だな……って思うかも知れないけど、これは、相手への気遣いの範疇だからね! 男子は、そういうことデキないヒトが多すぎ!」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 自分のように、多くの女子と気軽に話せないような人種には、こうした会話やメッセージアプリのやり取りをすることすら、ハードルが高い気がするのだが……。

 それでも、チェックマークを付けている自分が暮らす《惑星ほし = セカイ》でなければ、多少の失敗をしても気にならない。


 そう考えたオレは、二学期が始まってから、そのアドバイスに従い、白井三葉しろいみつばへのアプローチを開始した。

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