第39話 何が起こってやがるんだ

 統率者を失った巨大なゴブリンの群れは、やはりそこからあっという間に瓦解した。

 今までの巣穴でもそうだったが、ボスを倒されると一気に統率が取れなくなるのだ。


 僕とファンは手分けして残った雑魚たちを片づけていった。


「すごい数の素材と魔石が手に入ったね」

「そうね」


 ホブゴブリンにレッドキャップ……高密度の魔石も少なくない。

 だけど、一番はやっぱり、ゴブリンジェネラルの魔石だ。


 街に戻った僕たちは、いつものように冒険者ギルドに報告した。


「ご、ゴブリンジェネラルのいる巣穴に入った!? ななな、何やっているのよおおおおおおおお!? そういう高レベルの巣穴もあるって、何度も口を酸っぱくして伝えたわよねええええええっ!?」


 イレアが絶叫する。


 すでに通常の巣穴に潜ることは諦めて黙認してくれていたけれど、より凶悪な巣穴が存在しているので、十分に注意しなければならないと言っていたところの報告だ。

 怒るのも無理はない。


「ゴブリンジェネラルは、Cランク冒険者が討伐するような魔物なのよ! しかも大量の配下がいることを考慮すると、四人以上のパーティが望ましいと言われてるわ!」


 ひとしきり声を荒らげてから、イレアは大きく息を吐いた。


「はぁ、でも、無事に逃げ帰ることができたなら不幸中の幸いよ。ていうか、むしろよく生きて戻ることができたわね? 通常のゴブリンだけじゃなくて、上位種もうじゃうじゃいるはずなのに……」


 どうやら僕たちが巣穴から命からがら逃走したと思っているらしい。


「逃げてないわ。倒したもの」

「……はい?」

「巣穴にいたゴブリンは全滅させたよ。はい、これ、ゴブリンジェネラルの角」

「ええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~っ!?」





 岩場でファンと一緒にゴブリン狩りに励む一方で、僕はこっそり沼地でのリザードマン狩りを続けていた。

 もちろんシャドウナイツの魔法で生み出した、影騎士たちによるオート狩りだ。


「おっ、レベルアップしたかも」


 これが功を奏し、僕は七歳のとき以来のレベルアップを経験。

 レベル3になったのだった。


 このレベルアップのお陰で、影の騎士たちの数を増やせるようになった。

 全部で三十体にしても、魔力にはまだまだ十分な余裕がある。


 そしてリザードマンの素材と魔石が大量に手に入るようになった。

 下手をすればゴブリン狩りに匹敵する量だ。


 リザードマンはゴブリンと比べるとずっと強い。

 当然その魔石もゴブリンのそれとは密度が段違いである。


「よしよし、今回も大猟だ」


 沼地から持ち帰った【アイテムボックス】を確認し、思わずほくほく顔になる。


 ちなみにリザードマンの素材は、売らずに【アイテムボックス】に入れたままにしている。

 あの沼地は主にCランク冒険者たちが狩り場にしている場所なので、そこで大量のリザードマンを狩っていると知られると、さすがに受付嬢の心労が半端ないことになるからね。


 岩場で狩りをしながら沼地にも行ってるとか、どうやってるんだって話にもなるし。


「おっ、またあった。上位種の魔石」


 魔石の中にはリザードマンの上位種のものも交じっている。

 大きな動力が必要な魔道具のクラフトに使えるため、重宝する魔石だ。


「それにしても最近、上位種のものらしい魔石の割合が、増えてきてるような気が?」




    ◇ ◇ ◇




「シャアアアアッ!!」

「ちぃっ、またエルダーリザードかっ! 今日こいつで何体目だ!?」


 Cランク冒険者のギエナは、泥を撥ね上げながら猛スピードで躍りかかってくる凶悪なリザードマンを発見し、思わず叫ぶ。


 エルダーリザードは、リザードマンの上位種だ。

 リザードマンより一回り大柄でありながら、俊敏さは通常のリザードマンと引けを取らない。


 加えて硬い鱗を有し、低ランク冒険者の攻撃ではほとんどダメージを与えることは不可能だ。


 ギエナを含むCランク冒険者五人で構成されたパーティは、日頃からよくこの沼地で狩りをしている。

 リザードマン程度はもはや簡単に討伐してしまう彼女たちでも、エルダーリザードは厄介な魔物だった。


 だが本来なら、滅多に遭遇しないはずの上位種だ。

 それがこの日はすでに四体を討伐している。


「……ふう、さすがにこうエルダーリザードとの連戦が続いちまっては、体力が持たねぇな」


 どうにかエルダーリザードを仕留めたギエナは、大きな息を吐く。


「いったん撤退した方がよさそうね。もしかしたらこの沼地に何かイレギュラーが発生してる可能性があるわ。それに、今日だけでエルダーリザードを四体、通常のリザードマンも十二体倒してる。もう十分過ぎる収穫よ」

「そうだな」


 仲間の女魔法使いが提案すると、ギエナもそれに同意した。


 沼地は非常に足場が悪い。

 中には底なし沼も存在し、ハマってしまったら簡単には抜け出すことが不可能だ。


 それゆえ常に足場を確かめつつ慎重に進んでいく必要があるのだが、すでに何度もこの沼地を訪れている彼女たちは比較的安全なルートを把握していた。

 そのため撤退すると決めたら、かなりの速度で進むことが可能だ。


 イレギュラーの兆候は帰り道にもあった。


「おい、見ろよ。またリザードマンの死骸だ」


 リザードマンの死骸が、沼地のあちこちに転がっていたのである。

 ここ最近になって急にこうした死骸が増えており、その原因が分からないのだ。


 他の冒険者パーティが狩った可能性もあるが、数日前に冒険者ギルドに確認したところ、現在この沼地に頻繁に挑んでいるパーティは彼女たち以外に二つしかないという。

 明らかに死骸の数が多すぎる。


「上位種が増えてるのもそうだが、この謎のリザードマンの大量死……一体この沼地で何が起こってやがるんだ……?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る