第18話 未来の賢者様だ
王族たちの周りは王宮騎士団が固め、厳重な警備を施していた。
もし怪しい人間が王族の馬車に近づいていこうものなら、あっという間に取り囲まれて排除されてしまうだろう。
しかし熟練の騎士たちも、念入りに隠蔽の施されたその魔力には気づくことができなかったようだ。
真っ先に察知したのは、車列の真ん中あたりにいた僕だった。
「っ……この魔力は……?」
魔力の高まりを感じ取って、僕は咄嗟にその発生源を探る。
すると沿道に詰めかけた観衆たちの向こう、二階建ての家屋の屋上で、何者かが魔法陣を展開していることが分かった。
魔法陣は目視できないけれど、その魔力の動きから、いかなる魔法であるかを分析する。
「ちょっ、ちょっと待って」
思わず変な声が出た。
恐らくは第四階級赤魔法バーンプリズン。
第四階級の中では比較的、攻撃範囲の狭い魔法であるものの、その分、威力は凄まじい。
なにせ猛烈な炎が牢獄のように敵を取り囲んで逃げ道を塞ぎ、それから中心へと集合して対象を容赦なく焼き尽くす魔法なのだ。
「しかも狙いは……先頭車両!?」
馬車列の先頭を進むのは、ひと際豪奢な馬車。
そこで大歓声を浴びているのはこの国の王ミリアス=レア=ロデスだ。
当然ながら自分を狙うこの凶悪な魔法に、まったく気づいている様子はない。
僕は咄嗟に馬車から跳躍していた。
そのまま履いていた【飛翔シューズ】で宙を舞う。
「え?」
「第五王子!?」
「な、何を……」
観衆や騎士たちが何事かと驚く中、前を行く兄たちの馬車を跳び越し、一気に第一王子の馬車の上へ。
直後、国王を乗せた馬車の周囲で猛烈な火柱が燃え上がった。
「「「きゃあああああああああああっ!?」」」
「「「陛下ああああっ!?」」」
轟く観衆の悲鳴。
護衛の騎士たちも思わず絶叫する。
炎の檻に囚われた国王に逃げ場はない。
万一に備え、恐らく身に着けている衣服はそこらの防具よりも高い性能があるはずで、多少の魔法攻撃になら耐えることができるだろう。
だがこのまま火柱が収斂してしまえば、さすがに助かる見込みはなかった。
無論、それを黙って見過ごす僕ではない。
すでに対抗魔法を準備していた。
魔道具である【飛翔シューズ】には自分の魔力が不要なので、移動しつつもそちらに集中することができるのだ。
「プリズンフロスト」
その炎の檻を上書きするように、氷の檻が出現する。
バーンプリズンとは対をなす、第四階級青魔法だ。
相手よりも遅れて魔法陣を描き出したけれど、ギリギリ間に合ったようだ。
しかも僕の魔力量が相手を上回っていたお陰で、火柱は一瞬にして消失、国王の馬車が姿を見せる。
「い、一体、何が……?」
「陛下が命を狙われたんだ! だが、それを……」
「だ、第五王子だ! 第五王子が魔法で陛下を救ったんだ!」
僕が魔法を使うところを目撃した観衆たちが騒ぎ立てるが、今はそれどころではない。
代々の王たちが利用してきた伝統の馬車だったが、炎を浴びて無残な姿と化していた。
だが表面が焼け焦げているだけで、形状はしっかりと保たれている。
国王はその馬車の上に倒れ込んでいた。
騎士たちが慌てて駆けより、声を荒らげる。
「息がある! すぐにポーションを!」
「ヒーラーも呼べ! 急げ!」
「周囲に警戒しろ! 追撃があるかもしれないぞ!」
僕は第一王子の馬車から、国王の馬車へと飛び移った。
「だ、第五王子殿下っ……何を……」
「白魔法なら僕も使える。グレートヒール」
第四階級白魔法グレートヒール。
大抵の怪我や病気を治せる強力な治癒魔法だ。
やはり魔法耐性があったらしく、衣服はほとんど焦げておらず、火傷が酷いのは顔や手だけのようだ。
それも僕の魔法で見る見るうちに癒えていった。
「む……」
「陛下!? へ、陛下が意識を取り戻されたぞ!」
国王の意識はすぐに回復し、観衆たちが安堵の息を吐く。
と同時に、大きな歓声が上がった。
「またしても第五王子だ! 今度は白魔法で陛下をあっという間に治療されたぞ!」
「あのご年齢で、青魔法と白魔法を使いこなされているのか!?」
「「「クラフト王子! クラフト王子! クラフト王子!」」」
「いや、クラフト王子なんかじゃない! 未来の賢者様だ!」
国王暗殺未遂事件によってパレードは中止。
さらに一連の記念式典も、大部分が延期や縮小を余儀なくされた。
国王暗殺を企てた男は、すぐに騎士たちによって捕らえられた。
その結果、王政打倒を目論む反政府組織に属する魔法使いだということが判明したのだった。
三百周年に水を差す大きな事件だったが、一方で国民の盛り下がりはほとんどなかった。
というのも、暗殺を防ぎ、国王を護ったのが若干九歳の第五王子だったからである。
未来の賢者だと持て囃され、すでに「賢者セリウス」なんて呼ぶ者たちもいるとか。
「……クラフト王子からレベルアップし過ぎでしょ」
あのあと国王からも直々に呼び出され、大いに感謝された。
危うく退位後の気楽な生活が失われるところだったとか、建国三百周年のせいで公務が大変過ぎて本当に嫌だったとか、国王としてどうなのかと思う発言も多々あったものの、僕はすべて訊き流した。
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