第17話 クラフト王子と呼ばれてるとか
数か月後、第三王子が帰還した。
アーネル地方を完全奪還に成功しての凱旋だった。
「セリウス、お前の作った魔道具のお陰だ。離れた場所にいる部隊と常にリアルタイムでやり取りができる……戦いの概念を変えるほどの素晴らしい魔道具だった」
どうやら僕があげた魔道具が大いに役立ってくれたみたいだ。
それが【通信ボード】である。
前世の知識をもとにクラフトした携帯電話のような魔道具で、遠くの人との会話が可能だ。
情報伝達は戦場の要。
だがこの世界にはまだ一瞬で通信可能な便利な方法は存在せず――そういう魔法は存在するが一般的ではない――伝令や旗信号、狼煙、あるいは馬や鳥などを利用していた。
しかし【通信ボード】があれば、前線の状況が簡単に把握できる。
また指揮官の命令もすぐに伝えることが可能だ。
僕は全部で三十機もの【通信ボード】をクラフトし、第三王子に授けたのだった。
「予想通りバルステ軍はこちらを十分に警戒していた。ゆえに当初は我が軍が大いに苦戦させられたが、意のままに部隊を操り、どんな状況にも臨機応変に対応することができるお陰で、次第に優勢になっていった。気づけば圧倒的な勝利だ」
「戦況を覆してしまうなんて、兄様の指揮もよかったのだと思います」
僕がクラフトした【通信ボード】は、今のところ口頭で情報を伝え合うことしかできないし、状況を把握できても的確な指示を出せなければ宝の持ち腐れだ。
仮に第二王子が【通信ボード】を使っていたとしても、うまく使いこなせなかっただろう。
ともあれこれで第三王子の王位継承がほぼ確実となった。
領地を奪還したこと以上に、久方ぶりに有能な王が誕生しそうだということで、国民が大いに沸いたのだった。
僕は九歳になった。
この国の王族は一応、十歳で成人と見なされるそうなので、その基準で考えると子供としての最後の一年ということになる。
十歳になると王位の継承も可能らしい。
まぁ第五王子なのでその可能性はゼロだけれど。
今年はロデス王国にとって非常に重要な年だった。
なにせ建国三百年の、記念すべき年なのである。
大規模な祝典も予定されているため、宮中はいつになく騒がしい。
幸い第五王子の僕は公務への参加も少なく、家庭教師の時間以外は、自由な毎日を送らせてもらっていた。
この頃になると、なぜか僕の魔道具クラフト好きが国中に知れ渡るようになっていた。
第三王子が成し遂げた領地奪還の大勝利の陰に、僕の魔道具の存在があったという話が広がったことをきっかけに、急に注目されはじめたらしい。
「クラフト王子と呼ばれてるとか。褒められてるのか馬鹿にされてるのか」
ちなみに最近新しくクラフトした魔道具はというと、
温水でお尻を奇麗にしてくれる【温水トイレ】。
冷たい風や温かい風を送ってくれる【冷暖ファン】。
空を飛行することが可能な【飛翔シューズ】。
紙に書かれた文字をコピーしてくれる【印刷ボックス】。
永久に中身がいっぱいにならない【無限ゴミ箱】。
……などなど。
あとは魔法による特殊効果を有する武器や防具などもクラフトしたりしている。
あれから北の森でのオート狩りも続けていた。
ただ、魔物の数が激減してしまったらしく、最近なかなか見かけなくなってきた。
シャドウナイツを森に放置して四六時中、狩りをさせていたからね。
魔物はゲームのようにいくらでも湧いてくるってわけじゃないので、そのうち絶滅してしまうかもしれない。
レベルは七歳のときに2に上がったきり。
ティラでもレベル4だったぐらいだし、やはり簡単には上がらないのだろう。
そして建国記念日。
奉祝式典が執り行われた後に、節目となる三百周年を祝う盛大なパレードが行われた。
勇ましい騎馬隊に先導され、王都の街中を進んでいくのは全長一キロにも及ぶ行列だ。
国旗や王室旗がはためく中、軍楽隊の演奏や舞踊や武技のパフォーマンスなどが披露されていく。
街の各所には飾り付けがされていて、普段とは違う華やかさだった。
もちろん沿道は王国中から集まった観衆で溢れかえっていて、拍手と歓声が響き渡っている。
そんな隊列の最後尾を進んでいくのが、現国王をはじめとする王族たちを乗せた特別な馬車列だ。
その馬車の一つに僕も乗っていた。
ちなみに僕専用である。
先頭が国王、そして第一王子、第二王子と、王位継承順位通りに馬車が続いており、僕は六番目の馬車だ。
後方には后や王女たちの馬車が続いているため、ちょうど真ん中くらいである。
ここから見ている感じでは、やはり第三王子のときに観衆が最も盛り上がっている印象だ。
不人気な国王、目立たない第一王子、国王以上に人気のない第二王子のときとは、明らかに反応が違う。
当然、第五王子の僕なんて誰も注目していないだろうと思っていると、
「「「クラフト王子~~っ!」」」
観衆から幾度となくそんな声が飛んできた。
幸い馬鹿にしているような感じはなく、むしろ愛称的に言ってくれているように見える。
笑顔で手を振り返してみると、すごく嬉しそうな反応が返ってきた。
……もしかしたら僕も割と人気がある方なのかもしれない。
そんな大盛り上がりのパレードだったけれど。
このあと記念すべき日に水を差す、大事件が発生してしまうのだった。
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