第16話 実はいい魔道具があるんです

 あまりに脳筋な魔法ばかりで封印した第五階級だったが、中には有用なものもあった。

 その一つが、第五階級黒魔法のシャドウナイツだ。


 影から十体ほどの騎士たちを生み出す魔法で、自動で敵を倒してくれる。

 彼らを影分身に同行させておけば、影分身を護りつつ、より多くの魔物を討伐することが可能だった。


 維持しておくだけで魔力が消費されていくものの、一体でオークを討伐できるほどの力を持つため、森の深い場所でも大いに活躍してくれた。


「おっ、ハイオークだ!」


 テレビ画面越しにオークの上位種を発見。

 以前はこいつに殺されかけたトラウマで、画面越しでも思わず身構えてしまっていたのだが、


「よし、最高級豚肉をゲットするぞ!」


 今やすっかり食材にしか見えなくなっていた。

 オーク肉でも十分美味かったが、ハイオークはそれをさらに上回る美味さなのだ。


 影分身を通じて魔法陣を描いていく。


 ほぼ完璧に隠蔽できるようになったため、魔力で感づかれる心配はない。

 ただ、運悪く影分身のいる場所に近づいてきてしまうケースもある。


 今回がそれだった。

 魔法陣が完成する前に、そのハイオークが影分身の存在に気づいてしまったのだ。


「ブヒイイイイイイイッ!!」


 咆哮を轟かせ、猛スピードで襲いくるハイオーク。

 映像とタイムラグがあるため、実際には僕が見ているよりも早く距離が縮まっているはずだ。


 だが影分身に到達する前に、影の騎士たちが躍りかかっていた。


「~~~~~~~~ッ!?」


 巨体に四方八方から次々と剣を突き刺され、ハイオークはあっさり絶命する。


「解体して」


 僕の命令に従い、影騎士たちがハイオークの解体までやってくれる。

 もちろん魔石もしっかり確保しておく。


 得られた肉と魔石は、ティラにもあげた自作の【アイテムボックス】に。

 ここに保管しておいて、後からまとめて回収する予定だ。


 影騎士たちの活躍により、以前より魔物狩りが格段にやり易くなった。

 魔石もどんどん集まってきて、今や魔道具クラフトのために好きなだけ使用できるようになっていた。





 僕が八歳になって少しした頃、隣国バルステ王国との間で大きな衝突が起こった。


 隣国とはかねてから領土問題を抱えている。

 ちょうど両国に挟まれたアーネル地方を、長年にわたって奪ったり奪い返されたりしているのだ。


 ここ十年ほどはずっとバルステの支配下にあったのだが、それを奪還しようとロデス王国軍が攻撃を仕掛けたのである。


 正直あまり豊かな地域ではなく、支配したところで大した旨味もないどころか、軍事費が嵩んでマイナスでしかないのだけど、正直もはや理屈ではない。

 国の威信を賭けての戦いだった。


 同時にこの戦いは、王位継承を賭けた王子たちの争いでもあった。

 というのも、この王国軍を指揮したのが第二王子だったのである。


 ここで領地を奪い返すことに成功すれば、第二王子の王位継承は決定的となる。

 逆に失敗すれば、第二王子の陣営としては大きな打撃だ。


 それゆえ作戦を練りに練って莫大な資金も投じ、第二王子とその陣営は徹底的な準備を行った。


 しかし最初の奇襲こそ上手くいったものの、結果は惨敗。

 手痛い敗北を喫し、這う這うの体で逃げかえってきたのだった。


 これを受けて攻勢に出たのが第三王子の陣営だ。

 今度は我々の番だとばかりに、第三王子を指揮官とし、すぐさま新たな軍を編成したのである。


「撤退後すぐに攻めてくるなどあり得ないと、バルステ王国は油断しているに違いない。……という考えでの早急な再進軍だが、間違いなく厳しい戦いになるだろう」

「そうでしょうね。相手もすぐには警戒を解かないでしょうし、さすがに楽観的すぎると思います」


 その第三王子フリードの本音に、僕は正直な意見を返す。

 数日後には戦地に向けて出発するらしく、非常にタイムリーな話を当人の口から聞いていた。


「……やはりお前は優秀だ。八歳とは思えん。お前のような話の分かる者が、シュレガー家の上層部にいてくれればなと改めて思う」

「今からでも作戦を中止することはできないんですか?」

「無理だろう。もし仮にここで俺が作戦中止を求めれば、第二王子陣営が息を吹き返す。第三王子は臆病風に吹かれたと喧伝し、自分たちは敗北したものの果敢な挑戦をしたと訴えるに違いない」


 その結果、戦いに負けたにもかかわらず、第二王子が王位継承権争いをリードすることになるわけだ。

 仮に敗北濃厚だったとしても、第三王子にはそもそも退くという選択肢がないのである。


「それで勝てれば大きな国益になるというなら分かるけど、手に入れてもあんまり意味のない領地だっていうのが……」

「ああ、本当に愚かだと思う。そんなことばかりしているから我が国は衰退しているのだ」


 国を憂い、嘆く第三王子。


 もし僕が次期国王を選べるなら、間違いなくこの兄を選ぶ。

 どの王子が国王になればこの国の未来に希望を持てるかというと、どう考えてもこの第三王子以外にいないだろうからだ。


 正直、第三王子にはこの不毛な戦いに早く勝利してもらいたい。


「フリード兄様、実はいい魔道具があるんです」

「なに?」

「もしかしたら、戦いをかなり有利に進められるようになるかもしれません」

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