第二夜 2 ミレニア、ゴミを集める


 そんなわけで、今夜も外に出てみた。


 自宅マンションから鴨川に向かう道中は昨日と同じで、至る所で建物が異世界風だったり、戦国風だったり、なぜかプルプル震えていたり、路上に宝箱が落ちていたりしている。ただ、その内容や配置は昨日とはまた違っているようだった。

 眠っている人たちの夢により創られた世界なのだから、毎日同じではないというのは当たり前なのかもしれないな、と思い深く考えずにスルーした。

 なんか、入るたびに配置が変化するとか、そういうゲームあったよな。とか思う。

 それにしても、見れば見るほど異常な光景なのに、たった一夜でずいぶん慣れてしまったものだ。


 夜空を見上げると、今夜はとても綺麗に晴れているようで、小さな星まではっきりわかるほど煌めいている。この不思議な異変だらけの世界も、さすがに空高くにまではその力が及ばないのかもしれない。そう安心した気持ちにさせてくれる天を仰ぎながら、夜道を進む。

 でも、月はよく見えないな。その周辺にだけ少し雲があるのか、丸く大きな光にはうっすらとモヤがかかっている。それでも満月が近いのか、十分な存在感が示されている。

 そういえば昨夜も星は綺麗だったのに、月は見なかった気がする。とはいえ「この世界の月は恥ずかしがり屋なのかも」などとロマンチストなことを言ってる場合でもない。

 そんな言葉が霞むくらい、ここは空想が過ぎた空間が広がっているのだから。



   ◇   ◇   ◇



 さて、鴨川に着いた。

 ミレニアはどこだろう。そもそも彼女は鴨川にいるのだろうか。いないなら他に何処へ行けば会えるのかもわからないし、心当たりのある場所がここ以外にない以上、まず鴨川近辺を探すしかない。


 さて……と、三条大橋の上から鴨川沿いの遊歩道を見渡してみる。

 すると、少し離れた暗がりの中に人影が見えた気がした。いや、人影というか……うっすらと緑色の光を放っている。うん、普通の人はそんな色で発光しないから、間違いなく彼女だ。思ったよりも早く見つけることができたな。

 何かたくさん荷物を抱えているように見えるんだが、あそこで何をやっているんだ……?


「ミレニア!」


 歩道への坂道を降りて彼女のもとに駆け寄る。


「ノアさん! こんばんは! また来て頂けると思っていました!」


 彼女もこちらに気がついて元気良い挨拶を返してくる。

 そして広げた両腕の上に積まれていた荷物を、がしゃん、と地面に下ろす。


 何も運んでいたんだろう、とその雑多な山を確認する。

 よく見ると……いや、よく見なくても、ゴミの山だ。

 木片やら金属片やら紙切れやら何かの植物やら、元が何だったのか一切わからない、ゴミとしか形容できないゴミだった。


「これ……なんなの?」


「素材集めをしておりました!」

 ミレニアが質問を待ってましたとばかりに元気よく返答する。


「なるほど、素材か! わからん!」


「私もこれで何が出来るかはわかりません! だから、ノアさんに教えて頂こうかと思いまして!」


「なるほど! わからん!」

 本当にわからん!


「でもこの遊歩道を探索するだけでは、あまり使えそうな素材は見つかりませんでした。やはり良質な素材を見つけるためには、もう少し冒険する範囲を広げないといけませんね。でも、ここを離れるとノアさんと合流できないかもと思いまして、お待ちしていたのです」


「ねぇ、ちょっと何言ってるかわからないままなのに置いてけぼりで話進めないで」


「そんなわけで、ノアさん……今宵はダンジョンに挑みましょう!!」


「置いてかないで!」


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