第二夜 人生とは、命懸けの暇つぶしとみつけたり

第二夜 1 女神、また降臨する


『その日、人類は思い出した!』


「…………」


『そう、この私、ゴッドオブゴッド矢沢に支配されていた恐怖を!!』


「…………」


『…………』


「…………」


『……おかしいですね、本当に思い出せないのでしょうか』


「覚えてるよ、昨日の今日でしょ。なんか長ったらしい名前が省略されていることまでちゃんと覚えているよ」


『……なんて名乗ってましたっけ?』


「人類が思い出すとか言う前にまず自分の名前を思い出せ」


『なんか余計なものが混ざっていたのは記憶しているのですが』


「謝れ。アルテミスや弁財天に謝れ」


『まぁいいじゃないですか。その代わり私、あなたの名前も覚えてないですし』


「何がその代わりだよ、あんたが一方的に何も覚えてないだけじゃないか。だいたい覚えているもなにも本当に名前知ってる? 乃亜です、羽衣乃亜」


『へぇ、そんな名前だったんですね』


「やっぱり知らないんかい。なんで知らない名前思いだそうとしてた。そんなことより説明してほしいことが沢山あるんだけど、昨夜のあれはなんだったんだよ」


『あぁそうでした、昨夜はお楽しみでしたね』


「楽しむ余裕なんてあるか。無茶苦茶なことばかりだっただろう、どう見ても」


『まぁ、見てはいなかったんですけど』


「見てないんかい。そっちが引き込んだんだから経過ぐらい見ろよ」


『夜中ですからね、そんなことより寝た方がいいですよ』


「そんなこととか言っている奴に昨夜も今も呼び起こされたんですけど」


『それより昨夜はなにか得られたものはありましたか?』


「得るものも何も、変な夢をみさせられたな、としか」


『なんの成果も得られませんでした! ってことですね』


「それ言いたいだけでしょ」


『まぁ、実際のところは成果があったんですけどね、えー、上から82……』


「やめろ! というか、ちゃんと見てるじゃないか!」


『よっ! 一流ツッコミ師!』


「やめろ!!」


『とにかく楽しい冒険がまた始まりますよ』


「昨夜も言ったけど話の持って行き方が下手だよ、強引だよ」


『契約は自動更新です。指定期間以外の解約には違約金が発生します』


「いきなり事務的になるんじゃない、そもそも何も契約してないよ」


『なんの契約もしてませんでした!』


「もうそのネタいいから」


『では、冒険も止めておきますか?』


「いや……いろいろ気になることがあるから、もう一度行ってみたい気はするけど」


『……気になることというのは、彼女の事ですか?』


「いや、それもあるけど、いろいろと……」


『またまたぁ、それが一番気になるんでしょう。えー、上から82……』


「もう杖でぶん殴られるのは嫌だからやめて!!」


『そんなあなた、えーっと……あなたにはもう一度あの世界に行ってもらいます』


「強引だなぁ。あと、せっかく名乗ったのに結局人の名前覚えてくれないよね?」


『脳髄を捧げよ!』


「は? おい待て待て! まだ聞きたいことが!  …………!!」


 急に話を切り上げるように、光が消えた。

 そのまま闇の中に飲み込まれるように五感がフェードアウトし、意識が遠のいていく。


『では行ってらっしゃい。今宵も素敵な夢を』


 ……………………。


 ……………………。


「……また、あの夢か」


 次に気がついた時には、自室のベッドの上だった。

 周囲を見渡しても、ここは疑いようもなく自分の部屋。

 しかし、なんともいえない心がざわざわするような違和感。

 ……またあの夢の世界とやらに来てしまったのか。

 結局わけがわからないな、あの自称女神は。

 あの猫、今夜は来ていないようだが、ミレニアは……どこかにいるのだろうか。


 ……………………。


 まだ得体の知れない世界だけど、気になることは沢山ある。

 とりあえず、鴨川に行ってみるか。


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