幕間 ノア、現実に戻る


  『昨夜、どんな夢を見た?』


 誰かにそう問われて、内容を事細かに説明できる人はどれだけいるだろうか。


 おそらく、よほど印象に残った夢でない限りは誰も覚えていないと思う。

 朝目覚めれば、その記憶はすぐにうっすらと消えていく。夢とはそういうものだ。


 そんなものの、はずだ。


 なのに、なんだろう?


 この、明確な意思を持って行動して、記憶にも鮮明に残されている、一晩続いた夢は。


 確か、変な女神に呼び起こされて、猫と散歩して、ロボが襲ってきて、変な魔女に絡まれて、宝箱を開けたりガチャを回したりして、そして最後に杖でぶっ飛ばされた。

 ちゃんと覚えている。


 はたして本当に夢だったのか、本当は現実だったのかもまだよくわからない。

 もちろんあれらの異変が実際に起こっていたというのであればとんでもない話だが、かといってただの夢というのも信じられない。それぐらい感覚がリアルだった。


 気がついた時には自室のベッドの中で朝の起床時間を迎えており、いつも通りの午前7時に鳴った目覚まし時計を見て「少なくとも、ここは間違いなく現実だな」という実感はあった。


 ちゃんと戻ってきた、ということなのだ。


 確か、ミレニアが教えてくれた【現実に戻る方法】は2つほどあった。

 1つは【翌朝、普通に目覚めること】、もう1つは【夢の世界で死を迎えること】だったはず。


 …………。


 どっちの理由で戻ったんだろう。

 死ぬかと思った、というか、たぶん死んでたな、あれ。

 まぁ、それは深く考えないでおこう。

 ともあれ、戻ってこれたのだ。

 体のどこを見ても、怪我も全くない。

 ついでに財布を確認しても、3千円減っていたりもしてない。

 現実に影響が無いというのも本当だったのだ。


 さて、これからどうしよう。


 ……いや、どうしようも何もないな。

 現実なら、いつも通り過ごすだけだ。

 さて、学校に行こう。



【余談】自宅マンションを出てすぐの道路の側溝を確認すると、表紙にアイドルの裏情報とか書かれた下世話な雑誌が落ちていました。誰かの宝物らしいので、そっとしておきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る