第一夜 11 ノア、11連ガチャを回す
5月になると、この鴨川の岸壁に沿って並ぶ町屋からはそれぞれ『納涼床』と呼ばれている、川の遊歩道に迫り出したテラスのようなものが設置される。
京都の夏の風情を感じながら食事を楽しむことができるようになっており、それぞれの町屋や納涼床には仄かに暖かい光を灯す提灯などが設置され、とても穏やかに美しく鴨川を彩ってくれる。
……はずなのだ、しかし。
「……なんだ、これ」
訪れた場所は並びにある一軒の町屋らしき建物、だったのだが……。
建物や接続された納涼床全体に、大量のネオンや電球が輝いており、たった一軒で鴨川の雰囲気を台無しにするレベルで悪目立ちしていた。
まるで大阪にあるスーパーかと思うほど、ド派手だ。
屋根下の壁面にはネオンサインで、【 激 レ ア の 殿 堂 】などと書かれてある。
なぜここを訪れたのかというと、宝箱探索の続行を断念したミレニアが装備を整える別の手段として、
『実は近くに簡単かつ確実に素敵なアイテムを入手できるとっておきのお店があるのです』
などと言い、案内してくれたからだった。
お店というから、ゲームの世界みたく鍛冶屋や魔法屋みたいなものでもあるのだろうかと思い、ついてきてみたが……。
遊歩道に立ち尽くし、納涼床の足元から異様に眩いキラキラの建造物を見上げる。
「……これ、何のお店なんだ?」
「はい、こちらはガチャガチャと呼ばれるものです。ご存知ですか? ガチャガチャ」
ミレニアは難解な専門用語を使ってやったかのように、ドヤ顔で杖を突き出し問いかけてきた。
「ガチャガチャって、あのガチャガチャか?
お金を入れたらカプセルに入ったキーホルダーやフィギュアとかの小物が出てくる」
「さすがノアさん、博識ですね。私はこれを見るまで存じなかったのですが」
「いや、ガチャガチャくらい大体みんな知ってるだろうけど……ってこの派手な建物がガチャガチャ?」
「そうなのです! ここでガチャガチャを回せば、中から色々な武器や防具、その他素敵なアイテムが出てくるのです」
「武器が出てくるって……なんて物騒なガチャガチャなんだ」
「武器に限らず、やはりこの世界らしく多種多様なものが出てきますが、面白いものもたくさん出てきますよ。しかも、しかもなんと!」
平日昼間の通販番組のようなノリで語る。
あなた、また興奮してますね。髪が光ってますよ。
「出てくるものは全て【レア】と判定されたもの以上なのです。
珍しいものしか出てこないなんて、すごくないですか!?」
「本当にゲームのガチャみたいだな、それ……。
まぁいいか。それでこの中に入ればガチャガチャが回せるのか?」
「いえ、中には入れません。この建物全体がガチャガチャとなっています」
「建物全体がガチャガチャ!?」
「はい、ここでお賽銭を奉納すれば、中からカプセルが出てくる仕組みとなっています。詳しくはこちらをご覧ください」
「はぁ、お賽銭、って?」
ミレニアが指し示した先、納涼床の脚下をよく見ると、お賽銭箱のようなものが置いてあるのがわかった。
しかしよく見ると【 課 金 箱 】と書いてある。
神社などでよく見る【 お 賽 銭 箱 】と同じ書体で【 課 金 箱 】と。
なんか嫌な呼び方だなぁ。
箱の横を見ると立札で、説明書きのようなものも記されてある。
なになに……。
【三百円投入する度に一回、レアアイテム確定のガチャを回すことができます】
金額がリアルだなぁ。
【まとめて三千円を投入すると一回分のおまけ付きで十一連ガチャになります
さらに十一回目に排出されるアイテムは【激レア】以上が確定です】
わぁ、ありがちな設定。
【提供割合 超激レア 3% 激レア 27% レア 60%】
ガチャ界隈の人達ってレアって言葉の意味、本当に理解しているのか毎回疑問だよね。あと足しても100%にならないけど計算ミスですかね。
課金箱にはスピーカーのようなものも内蔵されているようで、購買意欲を煽るようなリズム感のあるBGMまで流れている(ちょっと和風)。
「なぁ、これも誰かの夢が具現化したものなのか? ここで暮らしている人とか」
「それなのですが、住宅地での変化と違いまして、こちらに関しては少し状況が異なるのです。
実はこの鴨川などのように現実で多くの人が集まるような場所では、夢の世界においても特定の個人によるものでなく、複数名の夢が集まることにより形成されたものも出現する傾向にあるのです。
多くの人が共通して同じテーマの夢を見ている場合、その意識がこういった場所に集まり、一つの集合体となります。多くの力が集まるほどそれに比例して、このような規模の大きな変化が生まれて定着ことがあるのです。
このような町屋がガチャガチャに変化する状況も、毎晩のように起こるのです。
それだけ、ガチャガチャに関する夢を見る人が多いということだと思います」
「なるほどなぁ」
ソシャゲとかにハマってて、夢の中でもガチャを回しているような人とか、まあそれなりに多くいそうではあるけど。
見れば見るほど目が痛くなってきそうな煌びやかな町屋を眺めて思う。
派手な演出とかも好まれるもんな、レアガチャ。
「さてノアさん、課金できるだけの現金はお持ちですか?」
「えぇ、本当にお金入れるの? 初回サービスとかは無し?」
ゲームだと普通はチュートリアルガチャとか、そういうのあるよね。
最初に会った自称女神、あいつも完全無料とか言ってたのになぁ。
「大丈夫ですよ。ここはあくまで夢の中ですから、現実でノアさんのお金が減るということはありません。
それでも【課金する】という行為が大切なのです。儀式のようなものだとお考えください」
「しょうがないなぁ」
一応、家を出る時に肩に下げてきたボディバッグに財布は入れてある。
見ると、課金するに十分なお金は入っている。
うーん、仕方ない、騙されたと思って(というか、間違いなく騙されてるけど)とりあえず回してみるか。
思い切って1000と書かれた紙切れを3枚、目の前にある金喰い箱に投入する。
パァアァァァァァン!!
うわっ、眩しい!
奇妙な効果音と共に、もともと過剰なほど輝いていた建物がさらに光を増して点滅を始めた。
最初は淡く白い光が基調だったが、続いて、金色の光を発する。
程なくして、派手な効果音と共に、なぜか色とりどりの魚がどこからともなく大量に現れて宙を横切っていき、最後に建物は虹色に輝き出した。
よくわからんけど、良いものが出る演出っぽい!
たぶんパチスロやってる奴の夢も混じってるけど、なんか期待感がすごいぞ!
「ノアさん! 出てきますよ!」
ガコンッ! ガラガラガラ!
突如、接続していた納涼床の脚が曲がり、先端が下がることによって歩道につながる坂道のようになる。その後、建物本体の戸口が開き、中から大量のカプセルが転げ落ちてくる。1つあたり、直径1メートルはある球体だ。
「そこから出てくるのかよ! てかデカッ!」
「ノアさん! ちゃんと受け止めないと、川に落ちて流されてしまいますよ!」
「えぇええぇぇぇ!」
◇ ◇ ◇
なんとか1つも鴨川に流すことなく、(主にミレニアが)食い止めた。
ガチャ回すだけでこんなに大変なのかよ。
川原に確保した大型カプセルは白いのが7個、金色が3個、虹色が1個ある。
おそらく色はレア度を示しているのだろうけど、虹色は1個だけか。まぁ3%なら出ただけでも十分良いのだろう。
問題は何が入っているのか、なのだが。
「ノアさん、カプセルが開きますよ! さぁ、一気に確認していきましょう!
ガチャガチャの中身を確認する時はいつもの10倍の元気良さと勢いでお願いします! それがルールですよ!」
「ええっ! 何そのルール!?」
勢いよく確認するってどういうこと?
パカッ! パカッ! パカッ!
川原に並べたカプセルが自動的に1個ずつ開いていく。
中から順番に出てきたものは……、
レア⭐︎⭐︎⭐︎ 防具【伝説っぽい盾】
レア⭐︎⭐︎⭐︎ 素材【宇治抹茶】
レア⭐︎⭐︎⭐︎ 武器【どこにでも使える便利な突っ張り棒】
激レア⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 罠カード【なんか色々跳ね返せそうな盾バリア】
レア⭐︎⭐︎⭐︎ 強化アイテム【倒れるだけで腹筋できる椅子】
激レア⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 武器【対リア充グレネード弾】
レア⭐︎⭐︎⭐︎ 防具【木製の盾】
レア⭐︎⭐︎⭐︎ 防具【ご当地マンホールの盾】
激レア⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 武器カード【銘刀 三日月宗近】
レア⭐︎⭐︎⭐︎ おしゃれ装備【ラブリーメイド服】
超激レア⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 昆虫カード【ヘラクレスオオカブト】
案の定、一貫性が無かった! なんだこのラインナップ。
「よかったですねノアさん、武器、ありましたよ!」
「それ突っ張り棒! 便利だけどただの突っ張り棒!」
「爆弾のようなものもありますよ!」
「対リア充! なんだ対リア充って!? なんでそんなものに特化した武器があるんだよ。あれか、爆発しろとかそういう怨念が」
「これはどうですか、激レアですよ!? 確か三日月宗近ってすごく高名な日本刀ですよね!」
「カーーード! 有名だけど、ただのカード!」
「防具もたくさん出てきましたよ! どれを装備しますか?」
「盾! 圧倒的盾率!」
「世の中には三刀流の使い手もいると聞いたことがあります! ならば盾3つでも!」
「そうか、よーし、1つを口に咥えて……って前見えるか!」
「でも盾だけでなく服もありますよ!」
「ラブリィメイド服ゥ!!」
「強化アイテムもありますよ! 倒れるだけで!」
「ただの筋トレ!」
「なんと、超激レアもありますよ!」
「すごいぞ、ヘラクレスオオカブトだ! って何に使うんだよ!」
「ご満足頂けないならば、もっと良いものが出るまでガチャガチャ回しましょう!」
「沼ァ!!」
◇ ◇ ◇
「………………」
「………………はぁ、はぁ」
「………………ノアさん」
「なんだ」
「ちょっと楽しかったです」
「うん」
まぁちょっと、楽しかった。
でも、なんで勢いよく確認する必要があったんだ。
というか、これであってるの?
「さて、ノアさん、突然なのですが」
「今度はなんだ?」
「そろそろお別れの時間です」
「本当に突然だな!」
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