第一夜 10 ミレニア、食べられる
「それで、冒険って、具体的にはどんなことをするんだ?
何でもいいにしても、候補はあるんだろう」
「そうですね、本当に何をしても良いのですが……やはり、まずは戦うための装備を揃えることが必要でしょうか。
もちろん何か危険があったとしても私がお守りしますが、ノアさん自身も備えがあったほうが安心でしょう」
「装備って……やっぱり戦わないといけないのか」
「それほど頻繁に、というわけではありませんが、何が出てくるかわかりませんから。
ただ、危険なことばかりではありませんよ。どちらかと申しますとここで遭遇するものは楽しいことばかりです。もちろん、戦いも慣れれば楽しくなってきますよ」
ミレニアは声を弾ませながら持っている杖を右手で握りしめ、上下にぶんぶんと振り回している。ちゃんと魔女っぽい道具も持ってるんじゃないかと見ていたが、完全に物理攻撃手段として所持している様子だ。
「わかったよ。積極的に戦いたくはないが備えるに越したことはないか。でもあんなのと戦うための装備なんて、どうやって調達するんだ?」
「まずは周辺に落ちている宝箱、いくつか開けてみましょう。役に立つものがあるかもしれません」
「それ、開けていくのか。まぁ、いいのか」
誰かの宝物じゃないのかよ。と思うが、道端に放置された宝箱に入っている以上この世界では拾われて活用される運命にあるのだろうと、とりあえず納得しておく。
でも本当に役に立つものは入ってるのか?
先ほどの雑誌が頭をよぎる。
「では手始めに、この箱の中身を確認してみましょうか」
ミレニアが指し示したのはすぐ近くに転がっていた、綺麗な装飾付きの宝箱だった。
表面には色とりどりのガラス細工があしらわれており、その隙間からも不気味な煙が……煙?
なんか見るからに怪しいぞ!
「さっそく開いてみますね」
「あ、おい待て! それ不用心に開けてもいいものなのか!?」
静止する間も無く、ギィィ……と、ミレニアが宝箱を数センチ開く。
ギィアァァァッ!!
直後、宝箱は派手に軋みながら大きく口を開けると、ミレニアの手を離れ高く飛び上がる。
開口部の上下からは、幾数本の鋭い牙が露出している。
なんと宝箱は、モンスターだった!
って、なんてベタな展開!
ばくっ。
ミレニアが身構える間も与えることなく、宝箱のモンスターは瞬く間に彼女の頭に齧り付いた。
胴体は直立した姿勢そのままに、頭部だけがまるごと宝箱に被さり食べられた状態になる。
「ミレニアーーーーー!!」
なんか今はちょっと魔法少女っぽい気がするぞ。でもその姿はみんなのトラウマだ。
とか言ってる場合じゃない、早く助けないと。でもどうやって。というか手遅れなのでは。
「うーん、ちょっと臭いです」
箱の中から、籠った声が聞こえてきた。
「ミレニア!?」
頭部に宝箱を被せたまま、彼女は普通にしゃべっていたのだ。
致命的ダメージを受けたように見えて、出てきた感想が『ちょっと臭い』って!
ミレニアは両手をそれぞれ宝箱の上下にあてると、ギィィっと開いて頭部を脱出させると、宝箱を軽くポイっと上空にトスして、杖に持ち替えて振りかぶる。
「ミレニアホームラン!」
ガキィイィィィィン!!
激しい打撃音と共に、あっという間に箱型モンスターを遥か彼方へと吹っ飛ばしてしまった。
「ええぇえぇぇーー!!」
なんというか、強さも展開も無茶苦茶すぎるだろ。
彼女は袖口を軽くぽんぽんっと払うと、何事もなかったようにこちらに向き直る。
綺麗に整っていた顔や髪には、よくわからない液体がまとわりついている。
「いえ、お見苦しいところをお見せ致しました。時折あるのですよ、このようなことが」
「時折あるのかよ」
だったらちょっと警戒しろよ。
「とりあえず頭、そこの川ですぐに洗い流したほうがいいのでは」
「そうしますね。お恥ずかしいことに、変な液体にマミれてしまいましたね」
「マミれてとか言うな。いいからはやく洗いなよ」
◇ ◇ ◇
「さて、気を取り直して、宝箱を開けていきましょう」
「続けるのかよ」
「ノアさん、この箱なんかどうでしょう。ちょっと和風な感じだし、さっきのような怪しさはありません!」
止めるつもりはないらしい。
ミレニアが次に選んだ宝箱は、藤の枝を丁寧に編み込んだようなつづら型のものだった。なんとも古風な京都らしいデザインだ。
ガサッ。
彼女はまたも警戒することなく早速その蓋を開ける。今度は中から眩い虹色の光が発せられる。
「これは……、ノアさん、なんだか凄いものが出そうな雰囲気ですよ!」
そういえば最初に宝箱を開けた時もこんな光を発していたな。
どうやらレアなものが出てくる時の演出らしい。
実際に出てきたものは微妙だったけど。
「ノアさん、何か見えてきましたよ……何か書物が入っています」
「書物って、まさか……おい待て!」
急いで箱の近くに駆け寄るも既に手遅れ。
光が消滅した後、箱に残っていたものは……。
【激レア!京町マダムの淫らな午後!ベストセレクション!DVD付!】
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「………………あの……ミレニアさん?」
「きゃあああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ミレニアさん!?」
中に入っていた“お宝”は案の定な物だった。
それを見たミレニアはしばらく硬直した後に突如取り乱したように叫び、すかさず手にしていた長杖を振りかぶって、
「やぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
バコーーーーーーン!!
激しい奇声を上げて繰り出された強烈なゴルフスイングで箱をまるごと彼方へと吹っ飛ばしてしまった。
さっきも箱型モンスターを杖で打ち上げていたが、その時とはテンションが異常なほど違っていた。
「どうしたミレニア!? 落ち着け!」
「……はぁ……はぁ…………ふぅ」
「……大丈夫か」
「すみません、ノアさん……普段は何事にも常に冷静でいることを心掛けてはいるのですが……実は私……その……猥褻的なものには全く耐性が無くて、目にすると我を失うほど混乱してしまうことがありまして……」
「お、おぅ……大丈夫だ、落ち着け」
つまりあれか、彼女の前でそういった物を見せたり下ネタとか言ったりしようものならタダでは済まない、ということか。
し○かちゃんなら『きゃ〜の○太さんのエッチ!』とか言われてお湯をかけられたりせいぜいビンタで済まされるような状況が、ミレニア相手だと殺人フルスイングが繰り出されるわけだ。
恐ろしや恐ろしや。
別にそんな言動を取るつもりは無いが、今のレベルであそこまで取り乱すのであれば気をつけたほうがいいな。
「…………ノアさん」
「どうした」
「宝箱の探索は、止めましょう」
「それがいい」
結局別の手段で装備を調達することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます