第16話 夜空を彩る思い出

町では毎年恒例の花火大会が開催される時期がやってきた。「時ちゃんの、めざし道!」のある通りも、この日ばかりは人々で賑わい、特別な喧騒が漂う。


時ちゃんは、この年も店の前に小さな露店を出すことにした。彼女の焼くめざしはもちろん、特別にこの日のために準備したあたたかい汁物も用意されていた。地元の人々や観光で訪れた人たちが、花火を待つ間のひとときを楽しむために立ち寄る。


夜が深まり、空は徐々に暗くなり始める。人々の期待感が高まる中、遠くで打ち上げ花火の準備の音が聞こえてきた。時ちゃんの露店にも、花火を背景に記念撮影をする家族や、あたたかい汁物を手に和やかに会話を楽しむ恋人たちの姿があった。


その時、店の常連客である老紳士が、時ちゃんのもとへやって来た。彼は毎年この花火大会の日には必ず時ちゃんの店を訪れ、露店でめざしを味わうのが恒例となっていた。老紳士は時ちゃんに、これまでの花火大会の思い出を語り始める。


「時ちゃん、君のめざしを食べながら花火を見るのは、もうこれが何年目になるかね。君のめざしは、毎年この花火をより一層美しく見せてくれるんだ」と言い、時ちゃんは静かに笑みを返した。


そして、ついに花火大会が始まり、夜空は色とりどりの光で埋め尽くされた。時ちゃんも露店の片手間に、空を彩る花火を見上げる。この瞬間、店の前は言葉を交わさなくても共有される、特別な感動に包まれた。


花火が終わり、人々がそれぞれの道へと散っていく中、時ちゃんは老紳士に向かって、「また来年も、この場所で花火を見ましょう」と言った。老紳士は嬉しそうにうなずき、来年の再会を約束する。


この夜、時ちゃんにとっても、老紳士にとっても、そして訪れたすべての人にとっても、忘れられない美しい思い出がまた一つ、心の中に刻まれた。時ちゃんの露店とそのめざしは、彼らの花火大会の記憶と共に、夜空を彩る思い出の一部となったのだった。

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