第15話 風に乗せた願い

春が深まり、新緑がまぶしいある日、「時ちゃんの、めざし道!」はいつものように穏やかな時間が流れていた。時ちゃんは、熟練の手つきでめざしを焼き続け、数人の常連客がその様子を見守りながら、ゆったりとした時間を楽しんでいた。


その時、店の扉が開き、一人の少女が緊張した面持ちで入ってきた。彼女は地元の小学生で、学校のプロジェクトで「地域の魅力を再発見する」ことに取り組んでいると語った。そして、時ちゃんの店を取り上げ、なぜ多くの人に愛されているのかを調べたいと頼んできた。


時ちゃんは少し驚いたが、少女の真剣な眼差しに心を打たれ、快く協力を申し出た。彼女は少女に、めざしを焼き始めた理由、そして料理を通じて人々と繋がることの喜びについて語った。


その話を聞きながら、少女は時折メモを取り、時ちゃんの話に耳を傾けた。そして、常連客たちも一言ずつ、時ちゃんの店が彼らにとってどれだけ特別な場所であるかを話し始めた。彼らの言葉からは、店がただの飲食店を超え、地域のコミュニティーの一部として機能していることが伝わってきた。


少女のプロジェクトが終わり、彼女は学校の掲示板に「時ちゃんの、めざし道!」の魅力を紹介するポスターを作成した。そして、そのポスターはやがて町の小さな図書館にも展示され、さらに多くの人々に店のことが知られるようになった。


この出来事がきっかけで、時ちゃんの店には新しい顔ぶれも見られるようになり、若い世代からも注目される場所となった。時ちゃんは、自分の小さな店が地域の魅力を再発見する一助となり得たことに、深い喜びを感じた。


この日から、「時ちゃんの、めざし道!」はただの食堂であるだけでなく、地域の歴史や文化を伝える場所としての新たな役割を果たし始めた。時ちゃんの料理と心が、風に乗せた願いとなって、町の人々の間でさらに広がっていくのであった。

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