第13話 遠い記憶の中のメディア

その日も「時ちゃんの、めざし道!」は、穏やかな雰囲気の中、時ちゃんがめざしを焼き続けていた。いつもの常連客の一人が、時折感じる時ちゃんのメディアに対する距離感について、静かに質問を投げかけた。「時ちゃん、なぜメディアを避けるの?」


時ちゃんは一瞬、手を止め、遠い記憶を辿るように窓の外を見つめた。そして、ゆっくりと話し始めた。


「子どもの頃、私の家族は小さな漁師町で魚屋を営んでいたんだ。ある日、私たちの町が特集されることになり、多くのメディアが押し寄せた。初めは、町にとって良い機会だと皆喜んでいたんだけど、メディアが去った後、町は以前とは違う空気に包まれたんだ」


彼女は、メディアの関心が町の日常を一変させ、家族の魚屋も一時的に賑わいを見せたが、その後の静けさと孤独感が、小さな心に重くのしかかったことを語った。


「メディアによって注目されることで、一時的には良いこともあるけど、それが去った後の虚しさを、私はずっと忘れられなかった。だから、自分の大切なものは、大々的に取り上げられることなく、じっくりと時間をかけて育てていきたい。この店も、そういう場所でありたいんだ」


常連客は時ちゃんの言葉に深く頷き、彼女の決意を改めて理解した。その日以来、彼らは時ちゃんの店が大切にしている「時間」の価値と、「静かに育つ」ことの意味をより深く感じるようになった。


時ちゃんがメディアを避ける理由は、幼い頃の経験が深く根付いていた。しかし、その選択が、彼女の店をよりユニークで心温まる場所にしていたことは、常連客たちにとっても明らかだった。時ちゃんの、めざし道!は、静かながらも強い信念を持つ場所として、訪れる人々の心に深く刻まれていくのだった。

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