第3話 不器用な絆

「時ちゃんの、めざし道!」が開店してから数ヶ月が経ったある日のこと。小さな食堂は、すでに地元の人々に愛される場所となっていた。時ちゃんの無愛想ながらも心を込めた料理は、多くの人々の心をつかみ、静かだが確実にファンを増やしていた。


この日、時ちゃんはいつものように黙々とめざしを焼いていた。カウンターには、数人の常連客がいつもの定食を楽しみにしている。その中に、最近越してきたばかりの若い女性、ミナもいた。彼女はこの街で新しい生活を始めたばかりで、まだ馴染めずにいた。しかし、「時ちゃんの、めざし道!」は彼女にとって、少しでも心が安らぐ場所だった。


ミナは時ちゃんの不器用ながらも優しい笑顔が好きで、店の温かな雰囲気に惹かれていた。しかし、彼女はまだ時ちゃんとはほとんど話したことがなかった。時ちゃんも、料理に集中しているため、なかなか顧客と会話をするタイプではない。


その日も、ミナは黙って美味しいめざしを味わっていた。食事が終わり、店を出ようとしたとき、彼女はふと勇気を出して、時ちゃんに声をかけた。「いつも美味しいご飯をありがとう。あなたのお店が大好きです」。


時ちゃんは少し驚いたようにミナを見たが、すぐに優しい笑顔を見せた。それはいつもの不器用な笑顔よりも、少し柔らかいものだった。「ありがとう、また来てね」と、いつもよりも少し長い言葉を返した。


ミナはその言葉がとても嬉しくて、店を出た後もずっと笑顔が消えなかった。彼女にとって、時ちゃんとのその短い交流は、新しい街での大きな一歩となった。そして、それから彼女はますます「時ちゃんの、めざし道!」を訪れるのが楽しみになった。


この日の出来事は、時ちゃんにとっても新しい経験だった。彼女は自分の料理が人々を幸せにできること、そして少しの言葉が人と人との間に温かい絆を作り出せることを改めて感じた。


時ちゃんの店は、ただの食堂ではない。そこは人々の心をつなぎ、時には新しい始まりを告げる場所なのだ。そして時ちゃん自身も、そのことを少しずつ理解し始めていた。

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