第4話 不意の訪問者
ある日の午後、通常よりも少し遅い時間に「時ちゃんの、めざし道!」に、一人の老婦人がふらりと入ってきた。店はいつもと変わらず、静かで落ち着いた雰囲気が漂っている。時ちゃんはいつものように、黙々とめざしを焼き続けていた。老婦人は静かにカウンターに座り、時ちゃんに一目を投げた後、周りを見渡した。
「いらっしゃいませ」と時ちゃんは淡々と言ったが、老婦人は何も注文しなかった。ただ、穏やかな笑みを浮かべながら、時ちゃんがめざしを焼く様子をじっと見つめている。この静かな観察がしばらく続いた後、老婦人はゆっくりと口を開いた。
「あなたのお店、ずっと来てみたかったのよ。この辺りの人たちから、あなたのめざし定食の噂を聞いてね。」
時ちゃんは少し驚いた表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻し、「ありがとうございます。何かお召し上がりになりますか?」と尋ねた。
老婦人は「はい、お願いします」と答え、時ちゃんはいつも通りに定食の準備を始めた。老婦人はその手際の良さに感心しながら、時ちゃんに向かって話し始めた。
「ねえ、若いのに、どうしてめざしにこだわるの?」
時ちゃんは一瞬、作業を止めて考え込むような表情をした後、「めざしは小さいけれど、しっかりとした味がある。それに、この仕事を始めたときに、何か一つのことに集中したかったんです。めざしを通じて、お客さんに喜びを感じてもらえたらと思って」と静かに答えた。
老婦人はその答えに微笑み、時ちゃんが提供しためざし定食をゆっくりと味わい始めた。食べ進めるうちに、彼女の目には驚きの光が宿る。「こんなに美味しいめざしは初めてよ。あなたのこだわり、伝わってくるわ。」
食後、老婦人は時ちゃんに感謝の言葉を述べ、店を後にした。その後も、時ちゃんのお店は口コミで少しずつ名を広げ、様々な人々が訪れるようになった。老婦人の訪問は、時ちゃんにとって、自分の道を歩み続ける大切なきっかけとなり、彼女の心に深く刻まれた。
この日から、「時ちゃんの、めざし道!」はただの食堂ではなく、人々の心をつなぐ場所となっていった。時ちゃんの小さな店は、多くの人々にとって、大切な思い出となる場所へと変わりゆくのだった。
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