第6話 大きな悲しみ

おばあちゃんに知られてからも、僕と銀ちゃんは毎土曜日に会い、春休みは毎日一緒に過ごした。

僕は、この楽しい日々がずっと続いて行くと信じていた。


年長の夏休みに入ってすぐに、お父さんとお母さんから話があると、家族全員が居間に集められた。

おばあちゃんは、もうどんな話かわかってるみたいで、お父さんは、僕と兄ちゃんに向かって話し出した。


「廉と凛、お父さん、東京に転勤が決まったんだ。だから、お母さんも仕事を辞めて、廉と凛と四人で東京に行くことになった。来週中には荷物をまとめて引っ越すよ。それまでに友達とお別れをして来るんだよ、いいね」

「「えっ!東京?」」


僕と兄ちゃんは驚き、揃って声を上げた。

兄ちゃんは、すぐに嬉しそうにしてはしゃぎ出した。


「やった!東京って超都会じゃん!よっし、皆んなにお別れついでに自慢してこよーっと」


そう言いながら、自分の部屋へ戻って行った。

僕は…僕は嫌だった。銀ちゃんと会えなくなっちゃう。おばあちゃんとも離れてしまう。兄ちゃんみたいに、喜べない…っ。

僕は、涙が滲みそうになるのを堪えながら、お父さんに聞いてみた。


「お父さん…おばあちゃんはどうするの?一人になっちゃうよ?凛…東京に行かないで、ここにいちゃダメかな…?」

「ダメに決まってるだろう。おまえは来年小学生になるが、まだ小さいんだ。お父さんお母さんと一緒にいないとダメだ」

「そうよ凛。じゃあ凛は、お父さんやお母さんと離れてもいいの?」


お母さんが僕の前に来て、僕の両手を握り、顔を覗き込んで聞いてくる。


「嫌だよ…。嫌だけど、おばあちゃんともここを離れるのも嫌だっ。うわぁん!」


僕は、とうとう我慢できなくて、泣き出してしまった。

お母さんが僕の頭をそっと抱き寄せて、背中を撫でてくれる。


「ごめんね…凛。辛い思いさせちゃって。でも、ここには、お正月や夏休みには帰って来るから…ね?それに東京に行ってもすぐに、お友達ができるわよ」


ひくひくと肩を震わす僕に、おばあちゃんが声をかけてきた。


「凛、おばあちゃんの事なら大丈夫やで。まだまだ元気やから何でもできるわ。近所に友達もたくさんいるしな。たまに遊びに来てくれたら、それでええよ。あんたは、お父さんやお母さん、お兄ちゃんと一緒に行かなあかんで。凛の好きな友達も、話したらわかってくれるから。明日、ちゃんとお別れしといで」


振り向いておばあちゃんを見ると、優しく笑って僕を見ていた。


「うん…わかった…。お友達にちゃんと言ってくる。おばあちゃん…ずっと元気でいてね…絶対だよっ」


おばあちゃんが頷くのを見て、僕の頬にまたぽろりと涙が零れ落ちた。




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