第3話 楽しい時間

それから僕は、毎週土曜日になると、銀ちゃんに会いに神社に行って名前を呼んだ。

名前を呼ぶと、銀ちゃんはいつもすぐに来て、僕を連れて飛んでいく。

あの広場だけでなく、街の景色が見渡せる山の頂上や、虹のかかる滝や、綺麗な石がきらきらと光る洞窟にも連れていってくれた。


冬休みに入ってからは、毎日会いに行っていっぱい遊んだ。

雪が積もって、普段なら歩けない山道も、銀ちゃんはなんなく飛んでいく。真っ白な雪景色の中で、銀ちゃんの銀色の翼は、まるで宝石のように輝いて、とても綺麗だった。


ある時、銀ちゃんが毎日山に遊びに来る僕を心配して聞いてきた。


「凛の親は何て言ってるんだ?」

「お父さんとお母さんは、朝早くに仕事に行って、夜暗くなってから帰って来るから、家にはおばあちゃんしかいないよ」

「そうか。おまえの祖母は気にしてないのか?」

「兄ちゃんと遊んでると思ってるよ。あとは幼稚園の友達と。大丈夫。凛、秘密は守ってるよ!」


僕の話を聞いて、銀ちゃんはにこりと笑うと、僕の頭を優しく撫でてくれた。

でも、おばあちゃんは、僕がどこに遊びに行ってるのか気になってたみたいだった。



お正月の三日間は、銀ちゃんに会えないと言われてたから、家で家族とのんびり過ごした。

その次の日から、お父さんとお母さんは仕事に行った。僕は銀ちゃんに会いに行くために、ジャンパーを着て玄関で靴を履いていると、おばあちゃんに「凛」と呼び止められた。


「なあに?おばあちゃん」

「あんた、銀ちゃんとやらに会いに行くんやろ?」


僕はびっくりして、靴を落としてその場に立ち上がる。


「なっ、なんで知ってるのっ?」

「毎日、あんたは楽しそうに遊びに行くけど、れんはあんたと一緒には遊んでない言うし、あんたの友達の親に会った時に聞いたら、遊びに来てへん言わはるし、おかしい思ってな。悪いけど後をつけさせてもらってん」

「い、いつ?じゃあ、銀ちゃんを見たの…?」


僕はドキドキしながら、手をぎゅうと握りしめた。


「ふふ、そんな怖がらんでもええ。年末にな、あんたがいつもどこに行ってるか気になって、後をついて行ったんや。ほな神社に入って社の裏側に行きよるし、こんな所で何して遊ぶんや、思ってたら、まあ綺麗な男の子が現れた。どこの子や、思って見てたら、銀色の大きな翼であんたを抱えて飛んで行ってしもた」


おばあちゃんが僕の傍に来て座り、僕の手を引いて自分の膝の上に座らせる。


「最初は慌てたけどな、でもあんたは嬉しそうに銀ちゃん言うて懐いてるし、男の子も優しい目であんたを見てたしな。まあ大丈夫やろ思って、一旦家に帰って来てん」


不安げにおばあちゃんを見る僕の頭を、そっと撫でてくれた。


「凛が帰って来るちょっと前に、また神社に行ってな、社に隠れて見ててん。ほな、あの綺麗な子があんたを抱えて飛んで戻って来て、大事に降ろしてくれとった。ふふ、あんたがお礼を言って、男の子の頬にちゅうした時のあの子の困った顔は、面白かったわ。凛はあの子が好きなんやな」

「うん…。凛、銀ちゃんのこと大好き。でも、銀ちゃんと会ってるのは、誰にも秘密だったんだ…。おばあちゃんに知られちゃったから、もう…会えなくなっちゃう…っ」


涙をぽろぽろとこぼしてしゃくり上げる僕に、おばあちゃんは服のポケットからハンカチを出して、僕の顔を拭いてくれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る