第2話 銀の秘密

銀ちゃんに会ってから銀ちゃんのことばかり考えていた。早く会いたかったけど、僕は幼稚園に行ってるから、普通の日は会えない。銀ちゃんも学校に行ってるだろうし…。

月曜日から金曜日まで我慢して、土曜日の昼に兄ちゃんが遊びに出掛けると、僕も後を追うように家を出た。

山の麓の神社まで力いっぱい走る。着いた時には、声が出せないくらいにしんどくて、何回か大きく深呼吸をした。

苦しいのが落ち着いてきて、何度か大きく息を吸い込むと、神社の奥にある山の入り口から、木々が生い茂っている先に向かって叫んだ。


「銀ちゃーんっ、凛が来たよ!」


こだまするように響いた僕の声が、だんだんと小さくなって消える瞬間、強い風が吹きつけて来て、僕はぎゅっと目をつむった。すると、後ろから少し低めの声が聞こえてきた。


「凛、元気にしてたか?」

「銀ちゃん!」


振り向いた僕は、銀ちゃんに飛びついた。そんな僕の頭に、銀ちゃんは優しくぽんと手を乗せる。


「銀ちゃん、早く会いに来たかったけど、僕、幼稚園に行ってたから…。銀ちゃんも学校?」

「ん?まあ、そうだな…。ところで凛。おまえ、約束は守ってるか?」

「うん!ちゃんと守ってるよ。凛と銀ちゃんの秘密だもん」

「よし、凛はえらいな。そんな凛に、もっといいもの見せてやる。ほら、俺の首に手を回してしがみついてろ」

「こう…?」


銀ちゃんの首に手をかけた僕を、銀ちゃんがしっかりと抱き上げる。そして、僕を見て「凛」と笑ったその時、大きな音が聞こえて強い風が吹いた。一瞬、目を閉じてからそっと開けると、銀ちゃんの背中に、きらきらと銀色に光る、とても大きな翼がついてるのが見えた。


「…きれい…」


僕は、ぽかんと口を開けて銀ちゃんの背中の翼を見て呟く。だんだんとわくわくしてきて、目を輝かせて銀ちゃんを見た。


「すごくきれいだね!かっこいい!いいなぁ…」

「そうか…ん、ありがと。凛、しっかり俺に掴まってろよ」


顔を赤くした銀ちゃんは、そう言って少し屈むと、一気に高く飛び上がった。

ふわりと身体が浮き上がる感じがして、僕は銀ちゃんに強くしがみついた。僕の顔の横で、くすくす笑う声が聞こえて銀ちゃんを見ると、「凛、見てみろ」と銀ちゃんが下を見た。

僕も同じように下を見る。


「わあっ、すごい!」


銀ちゃんに抱き上げられた僕は、周りの木々よりもずっと高い所に浮いていた。


「行くぞ、凛。目を閉じるなよ」


銀ちゃんはそう言うと、しっかりと僕を抱き、ものすごい速さで飛んでいく。下を見ると、赤や黄色の木が遠くまで続いていて、とてもきれいだった。


あっという間に、先週に連れて来られた場所に着いた。銀ちゃんはゆっくりと地上に降りて、僕をそっと降ろしてくれる。足が着いた途端、少しふらりとして銀ちゃんの服を掴んだ。


「大丈夫か?」

「うん。ちょっと、どきどきしちゃった…」


心配して僕を覗き込む銀ちゃんに、えへへと笑って見せる。いつの間にか銀色の翼は消えていた。


「銀ちゃん翼は…?」

「ああ、あれは飛ぶ時しか出さないよ。俺のは銀色だっただろ?だから、俺の名前はしろがねって言うんだ」

「そうなんだ。銀ちゃんの、すごくきれいでかっこよかった。また見せてくれる?」

「いいよ。帰りもまた飛んで連れて帰ってやるよ」


僕はぱあっと笑顔を見せて、銀ちゃんに抱きついた。


「ほんとに?ありがとう。銀ちゃん大好き!」


僕のとびきりの笑顔に、銀ちゃんが腰を屈めて僕の頭をぐりぐりと撫でる。

僕は銀ちゃんの肩に手を置くと、背伸びをして銀ちゃんの頬にちゅうをした。


「大好きな人にはこうするんだって。兄ちゃんが言ってた」

「……っ」


そう言って、僕はにこにこしながら銀ちゃんを見る。

銀ちゃんは頬に手を当て、目を大きく開いて僕を見ていた。


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