第10話 天神家
極東の島国『ヤマト』には太古から不思議な力が存在した。それは俗に言う魔法や呪術のようなもので、電気や火を操ったり、人の心を読んだり、空を飛んだりと多様な能力があった。
そんな魔法の国にはいつの時代にも絶対的な王がいた。ヤマトの始祖神の末裔である「
天神家とその従臣たちは民が持つ力を管理し、国の秩序を保つことに尽力した。それと同時にそういった特殊能力を持たない国外の人間を忌み嫌い、血が混ざることを恐れた。
超常的な力の国外流出と混血を避けるため、ヤマトはあらゆる国との交流を遮断し、何千年も続く鎖国体制を築き上げた。
時代が進む中でモンゴル帝国やアメリカの黒船、ロシアのバルチック艦隊など、開国を求める勢力が来航したが、その全てを天神家が持つ風神の力で退けてきた。
しかし1945年 世界大戦に勝利したアメリカは神の力を得るためにヤマト侵攻を開始する。天神家の能力者とヤマトの人々は必死に抵抗したが、最新の兵器を前に敗北してしまう。
ヤマトは敗戦国としてアメリカに支配され、天神家の人間は一人を除きことごとく殺された。そして一般市民も世界中で見せ物になったり、高値で取引され奴隷にされたりと酷い扱いを受けた。
すぐにアメリカ以外の列強もヤマトの支配権確保に乗り出し、ヤマト本土は荒廃の一途を辿る。そんな残酷な歴史の中で最初の『邪神』が産まれることとなる。それこそが…………
「うぅっ!? なんだっ……!?」
意識は一気に現実に引き戻される。さっきまでの血にまみれた情景はどこへやら、俺は和室でへたりこんでいた。
「これが
悲壮感溢れる声で魔王は言う。一体俺は何を見せられたんだ! 今見た残酷な行為の数々は本当に現実に起きたことなのか!? 俺の知っている歴史とは随分違うじゃないか……
「イザヤ、いまのっは!?」
「過去にヤマトで起きたこと。すべて真実、彼らは元々は世界戦争の被害者だった」
「ぞんなっ……」
俺は今までひたすら邪神を恨んで生きてきた。イグを殺されて、その恨みはますます深く黒いものになってさえいた。
しかしそれは邪神とて同じだったということか。ずっと自分たちは絶対的な正義だと思っていたが、やっていることは人間も邪神も変わらないじゃないか……
魔王たちが人間を攻撃する理由は明確にある……それを間違っていると一喝することは俺にはできない。
「復讐のつもりか?」
イザヤの問いに魔王は答える。
「初めはそうだった。怒りのままに力を振るい、我々は多くの命を奪ってきた」
「しかし行き着く先は地獄。殺せど殺せど心の
「脆弱な人類を滅ぼすことは
魔王の思いが吐き出されていく。それはあまりにも悲痛で、人間らしい感情だった。復讐の連鎖は誰も救わない。
きっとイグもそうだ。あいつがここにいれば、同じことを考えただろう。できることなら俺たちは理性的に話し合いで解決するべきなんだ。
そんな俺の思いとは逆に、イザヤは怪訝な顔で魔王に詰め寄った。彼女は明らかに戦いを望んでいる。
「何が言いたい?」
「争いの輪は断ち切るべきだ。世界の半分を人類に譲ろう。そして互いに不可侵を約束し、別の世界に住めば良いのだ」
もしそんなことが可能なら、人類にとっては願ってもない提案だろう。
魔王が本当にそれを望んでいるならば受けるべきだ。魔王とイザヤの強大な力があれば世界を上手く分けることだって夢じゃない。世界の二分割、それこそが平和への道か。
「協力して欲しいイザヤ・ノア。人類と邪神の共栄の道を共に切り開こう」
あとは彼女が応じるだけで戦いは終わる……
「話したかったことはそれだけ?」
「あぁ我と
「断る」
やっぱり彼女はそう言った。その在り方はまっすぐぶれない。それが天神イザヤ、俺の大好きな人だ。
「なぜだ? このままなら人類は滅ぶのみ。世界分割は最も良い選択のはずだ」
良いとか悪いとか、効率とか、平和とか、そんなの関係ない。
俺だって話し合いでの解決が最善だって分かってる。皆きっと分かってる。それでもできない。それが戦争ってもんだろ。
「いいや、私はもっと良い選択を知ってる」
そう言うと彼女は魔王に剣を突き立てた。
「邪神は一匹残らず私が殺す。そして人の世を取り戻す!」
「考え直せイザヤッ! 余は人を滅ぼしとうないのだ!」
「人に希望を見出した私と絶望したお前。互いに相容れず。殺し合いの中でしか解決はない」
「そうか……本当に悲しいよイザヤ。ならば再び剣を交えるのみ」
対立し合う両者の姿はどこか似ていた。譲れない信念を持った二人の最後の戦いが始まる。
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