第5話:戦場で矢を受けながら

 荒れ果てた荒野の僻地。


 私たちは、崇高な目的を達成すべく、2人で荒れ果てた僻地を進行していた。


「ハァ……ハァ……せ、センパァイ。一体いつまで歩き続ければいいんですかぁ?」

「ゼェ……そんなくだらねぇ議論してる余裕がッ……ゼェ……あるなら足を動かせッ!」

「ハァ……キャンプにいたら今頃モチモチのパスタが食べられたのに! どうするんすか! なぁ〜にが『最低限の物資で攻略してくれ。なるべく痕跡を消すためにな』ですか! 腹が減っては戦はできぬ! レーションなんか三日分を十日で食べろって言ってるんすよ? 2人で1人の三日分を! それも二日前に胃の中に消え失せましたよ!」

「同じ釜の飯だな、これで俺たちは同釜お仲間だ」

「あっははははははははは! 面白い冗談っすね(半ギレ)」


 かのクリミア戦争。軍が苦しんだのは戦時相手ではなく疫病と食糧不足だったそうだ。

 先人は言う。戦争は国を貧しくさせ、脳を腐らせると。

 後には引けないなんて言うギャンブラー様様の理屈で兵を減らし、その度増やプッシュしては損失させる。


 極度の栄養不足と軽度の脱水症状に苦しみながら、折り返しからしばらくの地点で立ち往生していた。


「おい、魔法袋はどうした? あの大きさの窯が入るんだ。持ってきてないのか?」

「この前話した通り、私のバックは貸し出し用のやつを一日借りてただけっす。流石にあの容量となると懐が痛いんで、今日は持ってきてません。あるのは個人用の小さいやつだけっすし、調味料しか入ってません」

「もし食料を入れたとしても、腹の足しにもならない……か。そんくらいの大きさでも充分動けるくらいの携帯食料があったらなぁ。流石にできないかぁ」


 先輩がぼやくように発言したそれ、実はもう存在している。

 前世のキャロリーメイツのように、軽くて、保存が効いて、栄養豊富で、しかも美味しいを目指して日々開発を続けているのだが、いかんせん材料費が高いし、思ったような出来にならない。ボソボソした食感になるのは仕方ないが、つなぎに蜂蜜を使うのがとても痛いし、なりより固い。散々擦られた反応になるが、石を食べているようだった。しかし、蜂蜜についてはこの前打開策を思いついた、と言うより見つけた。


 まぁその話はキャンプに戻ってからにしよう。


 ———ピク……ピクピクッ


「……先輩」

「あぁ……近い、400もないな」


 付近で金属音。


 阿吽の呼吸で意思を擦り合わせると、すぐに先輩はライフルを、私はナタと拳銃を構え、双眼鏡を地面に立てる。私の役割は観測者スポッターだ。


 なぜここでナタ? と言った質問は受け付けない、と言うよりそのうちわかる。


「距離にして350っすかねぇ、接敵しそうっす。見た感じ装備も軽いんで斥候ですかねぇ、人数的に本陣もいそう」

「目的は何にせよ、めんどうだな……よし、接敵準備。2人で20人相手するのは流石に堪えるからな、挟もう」

「あい!」


 私の方でもライフルを準備。目標は2人、この距離なら……








 ……当たる。


 コンマ数秒の時間差でサプレッサーの消音が鳴り、2人分の風穴が開く。情報を欠片でも持って行かせないために。


 遮蔽物など何もない平地だ。遅かれ早かれ、私たちに気づくだろう。その前に移動する。

 左右に展開し、本陣を挟み込むように岩陰に隠れる。


 連絡手段はない。しかし、長年寄り添ってきた互いを信じる心がある。


 ———いつ行きます?


 ———そうだな。なるべく早く、しかし部隊に穴が開く瞬間……


「『……今ッ!!』」


 地面を踏み締め、飛び出した瞬間に響く発砲音に、思わずにやけながら目標を定める。


 ———後方、前から4人目ッ……!!


 全体に指揮しているのがここからでもわかる。だめですヨォ、指揮官はまず遮蔽に隠れるべきだ。……仲間を肉の壁にしてでも。


「っ!? 来たぞ!」

「ッ!」


 指揮官の合図で剣を構える。

 反応が鈍い、新兵だな?


「『盾』」


 私の言葉に反応するように、目の前に半透明でサークル状の幕ができる。


 ダダダダダダダダダッ!!!


 クロスボウによる集中砲火を浴び、40数発か着弾するが、効かない。全て盾が弾き飛ばす。


 リロードに入ったな。全員同時に撃ち出したから、装填のタイミングも一緒。ある程度ずらして撃たないと、弾幕に穴ができる。


 その一瞬を狙って盾を解く、遮るものは無い。例外として指揮官だけが自慢の剣技を唸らせるが、全て避けきり蹴り一発。


「ガッ!?」

「ひゃっはーーー!!!」

「隊長をお守りしろッ!」

「遅いっ!」


 鬼のような柔軟力で右足を前に、左足を後に伸ばす。一気に腰を落とし、両足をそのまま軸として回転し、左手のナタで足という足を切断する。

 馬鹿正直に頭を狙うからこうなるんだよね、ファーストヒットを効果的に使うなら足を狙うべき。


 ちぃ! 流石に大将は避けたか。右手をバネにして、捻りを加えながら跳ね起き、オーバーヘッドの体制で首を狙う。受けられることは想定済みだ。


「ほらよッ!」


 遅ればせながら来た二発の蹴りには対応できなかったのか、首をぐらつかせながらのけぞる。


「こいつ……ッ! 間違いねぇ、『兎歩バニーホップ』だ!」


 ??? バニーホップ? あぁ、私にもついに『通り名』がついたか。


 ———今ですよセンパァイ!!


 私が心の中でそう唱える頃には、指揮者の頭は撃ち抜かれていた。びゅーてぃほー!


 この後、敵の兵糧を奪ったセンパァイと私は、軽く小躍りしそうなくらいにウキウキになった。


 や っ た ぜ。






 ◇◇◇◇◇






「「かっ、帰ってきた……ッ!!」」


 苦節二十数日、私たちはようやくキャンプに帰ってきた。

 先輩と私は平均で10キロのダイエットに成功した。笑えない……


「肉ッ! 食べていいんだな!!??」

「いきなりそんなの食べたらお腹壊しますよ……ッて言いたいですけど! 今回ばかりは賛成です!!」

「その前に報告だ」

「グロースさん、お久しぶりです! 会いたくなかった!!」

「生きてあんたの憎まれ顔をまた見れるなんて、嬉しくないっす!!」

「お前ら……まあ今はいい。ご苦労だったな『人狼リカオン』、アシュリー小軍曹」

「アシュリーは此度の小遠征で『通り名』がつきました」

「そうか、それも含めて報告しろ。店は私の一押しを予約しておこう」

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異世界転生Lv0 〜限界TS少女の軍隊メシ、TS少女は理想の後輩として振る舞う〜 涙目とも @821410

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