第六話 魔女っ公(爵令嬢)メグちゃん
公爵家からの暗殺を退けて無事辺境伯領へたどり着くことが、どうやらとりあえずオレの生存フラグへの筋道のようだ。この先生き残るためにはチュートリアルがやはりカギになるだろう。
とはいえ、今日はもう精神的にクタクタだ。ザケテルの訪問から退出までほんの数十分程度の出来事とは言えとんでもなく濃い時間だった。
今日はもう、何も考えたくない――
――と、気が付いたら周りは真夜中なのか真っ暗になっていた。窓から淡い月明かりが部屋をぼんやりと照らしており母の寝息が静まり返った部屋の中に聞こえている。恐らくライラは隣室で待機しつつ休んでいるのだろう。こういう貴族の屋敷は主人の部屋に従者の部屋が隣接していると前世のどこかで見知ったことがあった。
目が覚めたもののおむつも汚れていないし、お腹もさほど空いていない。うとうとしながら色々とお世話されていた覚えが朧気に残っているので、それからさほど時間は経過していないのだろう。
さて、母は寝ているし周りには誰もいない。これは絶好の魔法の練習時間なのではなかろうか!
「キャッキャ!」
「……う~ん、メグちゃ~ん?」
「(ビクッ!)……」
「むにゃむにゃ……そこはママのおっぱいじゃないわよ~……」
ふ~、危ない危ない。テンションが上がりすぎて思わず笑い声をあげてしまった。母はどうやら未だ夢の中のようだ。
母が目を覚まさないように気を使いつつ、まずはチュートリアルの内容と母がライラに使用した魔法を思い出す。
『チュートリアル:魔法を使用してみよう!を開始いたします。報酬は念話スキルです。※魔法ならなんでもいいよ~魔力を練って想像力でゴリ押しだ!byロキ』
魔力を練って想像力でゴリ押し……イメージと魔力量で魔法が使えるということのようだが、母がライラの頬を冷やす魔法を使ったときは呪文のような詠唱を使っていた。確か『涼やかなる水と風よひと時の癒しを与え給え』だったはずだ。
ではここで検証。『魔法に呪文が必要か否か』だが、結論から言えば呪文は必要ないだろう。なぜならチュートリアルには『魔力と想像力』しか示されていないし、それに何より――
オレは未だお喋りができないのだ!!
生後3ヶ月で生まれた赤ちゃんは口回りや舌の筋肉そしておそらく声帯も未発達で、喋ろうとしても「あ~うぁう~だ~~」くらいしか声が出せない。
そんなわけで無詠唱での魔法を試してみようと思う。
使う魔法は母が使ったあの魔法でいいだろう。火や水、土と違って涼い風が出るだけだ。危険性もないだろう。
それに先ほどお手本を見たばかりだ。
母がライラに使用していたように、人差し指を立てて眼前に持ち上げる。
魔力を指先に集めるのは、魔力認識スキルと魔力操作スキルを補助にすれば簡単にできる。魔力量は母が使用していた量と同じくらい……少し多くなってしまったかな?もともとの魔力量がオレには多いから少ない量の操作はちょっと難しい。
魔力とイメージ、魔力とイメージ……イメージの補助に母を真似て小声で呪文を唱えてみよう。
「しゅじゅ~なう、みうぉあじぇを~いおっきのや~ぉあらえまえ~」
『涼やかなる水と風よひと時の癒しを与え給え』
うん、滑舌は今後要改善である。
――――フワッ
指先に集まった魔力が小さな渦となって指先から飛び出し、周囲にクーラーのような冷風が流れ出した!
おお!!ちょっと魔力が多いせいか寒いくらいだけど、確実に魔法が使えた!!
――ん?
魔力の色が母のような水色ではなく、なぜか黄色っぽい色をしているぞ?
なんで魔力の色が母の時と違うんだろう。魔法はきちんと発動しているのに――「くしゅんっ!」と母のくしゃみが部屋に響いた!
やば、魔法を発動しっぱなしだった!夢中で魔法を観察していたけど部屋が大分冷えてしまった。
オレは慌てて魔法を止めすぐに寝ることにしたのだが、翌朝――
「たいへん!ライラ!メグちゃんが熱を出しちゃったみたい!!ライラ、ライラ~!」
オレはしっかり風邪をひいて、三日ほど母とライラに心配をかけてしまうのだった。
とにかくこれにて、魔女っ
『チュートリアル:魔法を使用してみよう!を達成いたしました。念話スキルを付与いたします』
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