第四話 公爵令嬢マーガレットちゃんの初受難 後編

 なんかもう怒涛の展開にいろいろ混乱しているがこの隙にこの状況を整理してみよう。まずは目の前のヘビ顔が『公爵閣下』と呼ばれたこと。ぼんやりとした視界ではヘビっぽい顔としかわからない。そしてそいつの『60歳のジジイの妾』という言葉から現公爵の父親である爺さんが未だ20歳になるかならない、少女と言っても通じる母を孕ませて生まれたのがこのオレマーガレットちゃんらしいとなんとなく理解。

 加えて、公爵という高位貴族の令嬢にもかかわらず乳母がいない理由も「母が先代公爵の妾」という複雑な立場ゆえだろう。


 え、オレヘビ顔と異母兄弟の公爵令嬢ってことになるのか?父親似とかマジで勘弁してほしいんですけど……ママン似のかわいい女の子になりたいなぁ。


 考えが逸れた。んで、改めて今行われた魔力検査?とやらがオレの去就を決める重要なイベント……なんだと思う。


『チュートリアル』で得られる情報として『魔力を誤魔化す』こととその報酬が『死亡条件の回避』であること。ロキからのアドバイスとして『多すぎても少なくてもダメ』であることから、一般的な赤ちゃんの魔力量を維持しなければ「かなりマズイ状況になる」場合によってはここで殺されるかもしれないってことが推測できる。


 恐らくヘビ顔は今、オレをどう扱うのか考えているのだろう。


 オレの魔力が多いと判断された場合、公爵家の道具として扱われる事は前世の記憶と経験、知識から容易に想像がつく。例を挙げるとすれば母のようにどっかのジジイの後妻として政争の道具として使われたりとかな。魔力が遺伝するとすれば魔力量の多い妾の、しかもどう見ても美少女ですありがとうございました。な母の子ともなれば将来有望かつどうとでも扱える便利な駒となることはほぼ間違いないだろう。


 では少ない魔力量ならどうなのか。禿老魔法師の「王家の血を引いているとはとても」という言葉から、オレは王家の血筋の公爵家のジジイの妾の子ということになるがこういう場合のお約束としては「少なすぎる魔力量の子など我が家の恥!闇から闇に葬ってくれる!」というのが定石ではなかろうか?


 じゃあここで一番望ましい状況としては何だろうか。それは「公爵家の子としては認められないが、何かに使えそうだしもったいないから取っておく。殺すのにも手間がかかるし外聞も悪いからね!」である。


 つまりは状況の先送りをしてくれることが一番助かるのだ。なんせ今のオレは赤ちゃんで母の母乳のみが唯一のライフライン。オレが今後どの程度の魔法が使えるのかは不明だが『すごく多い』らしい魔力量があるので、離乳して自分の足で歩けるようになればこの家から逃亡することも視野に入れられるからだ。


 せめてあと5年。いや、3年だけでも時間があればなんとかなりそうな気がする。「よし、その赤子の処分を言い渡す」オレの考えは遮られた。


 目の前に立つザケテルの姿に、裁判で判決を待つ被告人のような気分になる。ザケテルのヘビのような視線がオレの姿を睨みつけた。まるで文字通りヘビに睨まれたカエルのようだ。マーガレットちゃんはカエル顔ではないはずだけど。なんてくだらないことを考えて気を紛らわせてるけど正直泣きそう。「大丈夫、大丈夫よ」と母が小さく呟きオレの背を優しくなでてくれた。


「フン、この状況でも泣かない赤子か、気に入らん。……そいつは前公爵の妾の子として認めよう。しかしながら正式に我が公爵家の子としては認めぬ」


 まぁそうだろう。恐らくではあるが60にもなって子供をこさえる元気な前公爵のことだ、オレや母のような境遇の女性や赤ん坊がほかにも多数いるのかもしれないし外聞もよろしくはない。「そして――」とザケテルは続ける。


「その娘が2歳となった時、グラハルド辺境伯が三女アンネリーゼよ。お前と娘はこのドクズル公爵家から出て行ってもらう」


 その言葉に母は「かしこまりました。ご高配を賜り誠にありがとうございます」と頭を下げた。フンと一つ息を吐いたザケテルは禿老魔法師を連れ退出していった。


 の、乗り切った~~~~~~!!


 とりあえず2年か。2年我慢をすれば自由になれるらしい。やったぜ!と思ったのだが……頭を下げている母の顔が曇ったままなのが気になった。


『チュートリアル、魔力量を誤魔化そう!を達成いたしました。ひとまずの死亡条件は回避されたようです』


 ???


 ……どうやら公爵令嬢(非公式)マーガレットちゃんの受難はまだまだ続きそうです。


 あぁっ神さまっ!と祈ったところで、白黒ラブリーにゃんこが腹を抱えて笑っている姿しか思い浮かばなかった。


 2年弱の猶予の中でさて、どこまで行けるのか頑張りどころであるが……オレの飽きっぽい性格が災いしなけりゃいいなぁ……


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