第二話 ステータスとスキル『チュートリアル』
「おはようメグちゃん。おなかが空いたのかしら?」
小さな赤子として転生したオレを腕に抱くこの女性はこの世界での母だ。ミルクのような匂いと腕のぬくもりが自分を包んでおり、透き通るような声で語り掛けてきた。先ほど微睡んでいた時に聞いた子守歌も母が歌っていたのだ。ロキが付けてくれた基本言語理解のスキルのおかげか、母の言葉がきちんと理解できる。
新生児の視力では細かい顔立ちはわかりにくいが、透き通るような白い肌に美しくも愛嬌のある顔立ちをしているように思われる。そして何よりも特徴的な、濃い桃色の髪色をしていた。
もし髪の毛を染めているのでも無いかぎり間違いなくここは異世界だと思える。ピンク色の地毛なんて元の世界で見たことが無い。
母の容姿はさておき、自分が女児として転生したことについて思うところがあるか無いかと聞かれれば……正直どっちでもいい。むしろ女としてどのような人生を歩めるのか興味すらある。
自分の出自やその社会情勢がどのようになっているのかは不明であるが女と生まれた自分に異性との自由恋愛が楽しめるのか、それとも許嫁でも宛がわれ子を産む義務を負わされるのか、将来どうなるかはわからないけれどなるようにしかならないだろう。
「アンネリーゼ様、おむつは大丈夫でしょうか?」
「ライラ、ありがとう。湿り気もにおいもないから大丈夫。そろそろお乳の時間だからおなかが空いているだけだと思うの」
「マーガレット様はそろそろ生後三ヶ月。お生まれになった時以外ほとんどお泣きにならないので……むずがる事はあるのですが」
ライラと呼ばれた、おそらくメイド服のような白黒のエプロンドレスを着ている女性が大量のタオルをベッド脇の籠に片付けながら母アンネリーゼに声をかけた。ちなみにライラの髪色は濃いブラウンの髪色で元の世界でも見慣れた色をしていた。
メイドがいるってことは、オレの生まれはそれなりに裕福なのかもしれない。
「今までに何人か赤ちゃんのお世話をさせていただいた事はあるのですが……ここまで泣かない子はお世話したことがございませんわ」
「……メグは、何かおかしいのかしら」
ぼんやりとした視界でも母の顔が曇るのが分かった。
優しい母にはそんな顔をしてほしくない。オレは母に手を伸ばした。
「何をおっしゃいます!わたしは今までこんなに可愛らしくて聡い赤ちゃんを見たことがございません!ほら、今もお母様のお顔を心配なさっておいでですよ。泣かないのもきっと賢いからですわ」
「そうね、ありがとうライラ。ありがとうマーガレット……
母アンネリーゼはオレの小さな手を取り、頬にあてて涙を一粒だけこぼした後優しい笑顔で語りかけた。
「さてメグちゃん、おっぱいの時間ですよ~」
さて、これから転生前を含めた精神年齢父親とその娘ほどに年の差がある母から授乳されなければならないのだが、現在は女児に転生している身として、しかも実の母に対して一切の情欲など湧くはずもなく――とはいえ若干の後ろめたさを感じるのは事実なので――オレはこの時間をいつも体は本能に任せて乳を飲みつつ思索に耽ることとしている。
つまりは現実逃避である。
さておきまずは自分の状態を改めて確認しよう。ロキからもらったスキルは『基本言語理解』と『チュートリアル』の二つ。基本言語理解については先ほどの母たちの会話が理解できた通り。二人の会話は日本語ではないのだが意味が理解できる。日本語として理解できているわけではなく意味が分かるというのが助かる。日本語として理解してしまうとこちらの言語を話すときに苦労してしまいそうだから。
チュートリアルスキルについては頭の中に「今やっとくといいこと」が思い浮かぶ感じだ。初めに意識できたのは生まれてまもなくの時だった。
『まずはステータスを確認してみよう!報酬:魔力認識スキルレベル1※一般人は自分のステータス見れないし、表示は絶対値じゃなくて相対値だから注意ね!byロキ』
ということで現在のステータスはこんな感じである。
個体名:マーガレット(家名は不明)
父:不明
母:アンネリーゼ(家名は不明メイドがいるからそれなりに裕福な家庭か?)
年齢:0歳3ヶ月
体力:赤ちゃんですから、お察し
魔力:めっちゃ多いかも…(母とライラからの比較)
スキル:
基本言語理解 Lv:無制限
チュートリアル Lv:1(4/10)
魔力認識 Lv:3(25/100)
魔力操作 Lv:2(40/50)
魔力隠蔽 Lv:無制限
※※(未発現スキル多数)※※
未発現スキル多数というのは多分ロキが言っていた前世からの引継ぎで発生するスキルだと思われる。今は気にする必要はないだろう。
これまでこなしたチュートリアルは『内容:報酬』で表すと――
『ステータスの確認:魔力認識スキル』
『魔力を視よう:魔力操作スキル』
『魔力の操作:魔力隠蔽』
となる。
そして、現在進行形のチュートリアルこそが結構重要かもしれない。
『魔力量を誤魔化そう!報酬:死亡条件の回避 ※多すぎても少なすぎてもダメ!体外に放出される魔力量をある程度隠せると◎!byロキ』
『報酬:死亡条件の回避』っていきなりヤバいな!!
この内容が出たときは思わずびっくりしすぎて泣きわめいてしまった。メイドのライラが「ほとんど」と言った数少ないうちの一回だ。
魔力量を誤魔化すといわれて真っ先に思いついたのは魔力隠蔽スキルを使用することだと考えたのだが……魔力隠蔽スキルの使い方についてはかなり苦労した。
結論から言うとこのスキルは単体ではほとんど意味のないスキルだったのだ。
魔力隠蔽を単純に使ってしまうと体外に漏れ出る魔力の一切が抑えられてしまい、自分の手のひらを魔力認識スキルで見ると魔力がほぼない状態に見えてしまう。なので、母アンネリーゼとメイドのライラを参考にして魔力操作スキルと魔力隠蔽スキルの合わせ技で調整する必要があったのだ。
ライラの魔力は魔力認識スキルで見れば決して多くないように感じる。自分の普段の魔力量を100、魔力隠蔽全開でほぼ0とするとライラは2くらいにしか見えない。
対して母はライラよりは多く6くらいに見える。加えて魔力操作を毎日練習している影響か自分の魔力が少しずつ成長していくのも認識できていた。
そんなわけでいくつか考えたのが①ライラは多分一般人程度の魔力②母アンネリーゼは一般人の3倍くらいの魔力③自分の魔力は成長している。の3点だ。
なので、自分の魔力は4から5くらいに認識できる程度で隠蔽できればいいと考えて日々練習と維持を繰り返している。おかげで魔力認識と操作が日々成長しているのだ。
だが、もしこれで魔力量の誤魔化しとやらが失敗したら……
などと思索に耽っていると――
ゴン!ゴン!
――乱暴にドアをノックする音が響き渡った。
「入るぞアンネリーゼ。まったく、父上にも困ったものだ……齢60にして赤子を設けるなどいい迷惑だ!」
そう言いながら40代程度の装飾過多なヘビ顔のおっさんがズケズケと部屋に入り込んできた。
オレいまママンのおっぱい飲んどるんですけど。邪魔しないでもらえませんかねぇ!!
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