第一話 異世界転生のはじまり
ミルクのような匂いのする温かいまどろみに包まれながらオレは微睡んでいる。
穏やかに聞こえる子守歌をBGMにオレはロキとの出会いを思い出していた。
「キミにはこれから、異世界に転生してもらう。ボクの目的は停滞しつつあるその世界をひっかきまわすことさ!」
「停滞しつつある世界?」
「うん。世界ってのは代謝を繰り返すことで発展し、破壊と再生を繰り返すことで成長していくんだけど、その世界はなんていうかなぁ『諦めかけてる』世界なんだよねぇ」
ロキはため息をついて、空中に腰掛けるような仕草をとる。
「挑戦も逃げることもせず、そこに生きているヒトたちがみんな妥協し始めているのさ。このままだと世界の成長が見込めず世界をめぐるマナが固まってしまう」
「マナ?」
「ああ、細かい説明を始めるとキリがないから今は聞き流して『そういうものだ』と認識しておけばいいよ。ともかく、そんな状況は神たちにとってとても都合がわるいのさ。文化の発展もなく争いもない。一部のヒトには
「
「そゆこと!ってなわけでキミにはボクの使者として世界をひっかきまわしてほしいわけ。もちろんいくつかの特典を付けてあげよう!」
「特典……いわゆるチート的な?」
「チートというほどでもないけど……そうだ!キミの努力次第でチートスキルをゲットできるようにしてあげよう!そのほうが面白い!!」
ロキはいたずらを思いついた子供のようにクツクツと笑い声をあげた。
「今ここでボクがやって欲しいことを全部言っても覚えていられないだろうし理解もできないだろうから『チュートリアル』スキルを付与してあげよう。キミはそれに従ってもいいし従わなくてもいい。チュートリアルをこなせば便利なスキルが手に入るようにしてあげるよ。場合によってはチートスキルもね!」
「盛り上がっているところ申し訳ないけど、これから行く世界にはスキルがあるのか?」
「あぁそうだね、言うの忘れてた。これから行く世界は魔法もスキルもステータスもある世界だよ!というわけでキミに与えるスキルは『基本言語理解』と『チュートリアル』それと記憶の保持が基本として……あとはキミのこれまでの生き方に準じたスキルを付けてあげよう。ほかに希望はあるかな?」
ロキはオレの目の前にふわりと近づき、蒼い双眸でじっと覗き込んできた。
かわいいにゃんこと鼻チューしたくなる欲求に抗いつつオレは考えた。
「記憶が引き継がれるのが良いのか悪いのかはわからないけど……まぁでも特に希望はないかな。このままこの世界にいても数年で死ぬしかないし何より予感がするんだ」
「予感?」
「変に注文つけるより、おまかせのほうが面白そうだ」
「……いいね!イイよ!すごく良い!ボクの気まぐれとはいえキミを選んだ甲斐がある!」
オレから離れたロキは手をたたきながら空中でクルクルと踊るように回りながら距離をとった。
「さて、そろそろ時間だ。キミにはこれから剣と魔法の異世界に転生してもらう。心の準備はできたかな?」
「ああ、頼む」
「向こうの世界の管理神にはキミのことを伝達済みだから、もし会うことがあればよろしく言っといて!ボクとキミが再会することは多分ないけどキミのことはいつも見守っているよ!せいぜい世界をひっかきまわして面白おかしい人生を送ってくれ!」
ロキがポンと両手?両前足を叩き合わせると、ふわりとした光がオレの足元から立ち上りオレの意識がゆっくりと遠ざかっていく。
「あ、ちなみにテンプレ表現すると開始難易度は
「ふざけんな!バカ!聞いてねぇよ!」
「ハハッ!なんか妙に悟ってるキミの本心がやっと聞けたよ!……チュートリアルは絶対キミの助けになるから、頑張ってね!」
「ああ!ありがとう!」
光に包まれる視界の中、ロキの顔が慈愛に満ちた微笑みを讃えているように見えた。
「ふあぁ……眠い。早くコタツに入って寝よ」
違った。眠気で笑ってる顔に見えるだけだった。
所詮ネコか。
微睡みの中からゆっくりと意識が浮上する。
身じろぎをして目を開けるとぼんやりとした視界の中に大きく映った女性が腕の中のオレの目覚めに気付き、優しく声をかけた。
「おはようメグちゃん。おなかが空いたのかしら?」
オレは、女の子として転生した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます