少年は全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを夢想する
平井敦史
第1話
プテには三分以内にやらなければならないことがあった。ベルを鳴らしたご主人様のところに、ウィスキーの水割りを持っていくことだ。
「遅いぞジム! 何をやっているこのグズが!」
少しでも遅れると、ご主人様の罵声が飛んでくる。いや、殴られないだけマシというべきだろうか。
「プテ」とは
プテはアメリカ先住民、俗に言う「インディアン」で、ラコタ・スー族に属する部族の出身だ。
しかし、彼らの部族は
ラコタ・スーの人々は、
中でも、 “
しかし、
そしてその一方で、
それは、食糧とするためではない。皮革を取るためでもない。娯楽ですらない。
ただただ、先住民たちから生活の
白人入植前には北米大陸に六千万頭以上生息していた
プテも幼い頃、平原の至るところに打ち捨てられた
彼ら平原の民にとって、
幾万年もの昔から、彼らは
それを、
抵抗を
プテの両親は、先住民に対して同情的だったキリスト教牧師の
それが、せめて我が子は食いっぱぐれないように、という親心であることは承知していても、毎日こき使われる日々は辛い。牧場主の妻は比較的優しいが、その優しさも、自分と同じ人間に対するものではなく、犬や馬に対するものであると悟らざるを得なかった。
使用人部屋で薄いオートミール粥の食事を
「
脂身が口の中で溶けていく感覚が蘇る。
けれど、きっともうあの味を味わえる日は来ないのだろう。
プテは夢想する。大平原を、かつてのように
そして、
かつて
「ジム! ちんたら食ってないでさっさと掃除しな!」
牧場主の息子の怒鳴り声で、プテは現実に引き戻された。
「はーい、すぐやります!」
慌ててオートミールを飲み込む。
遠くで牧場の牛が、のどかな鳴き声を響かせている。
今日も牧場は平和である。
――Fin.
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KAC2024(カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2024)第一回のお題で「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ」というのが出され、ネットでバッファローについてちょいと調べてみたところ、その悲劇的な歴史に触れ、勢いのままに書いてみました。
ちなみに、バッファロー=アメリカバイソンと思っていらっしゃる方が多いでしょう(私もそうでした)が、実は「バッファロー」とは水牛を指し、バイソンをバッファローというのは本来誤用なのだそうです。
少年は全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを夢想する 平井敦史 @Hirai_Atsushi
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