スペースオペラ

磧沙木 希信

スペースオペラ

 勇者と聖女には三分以内にやらなければならないことがあった。


 でも、それはまた別のお話し…。



「またこのパターンかよ! 」


 俺の大好きな漫画家”カルシウム伯爵骨太丸”(ペンネーム)先生の最新刊。


 ”プロテインそして牛乳。これらは全てを救う事が可能だろう”(直訳)の第二巻。


 楽しみにしていたマンガの最後のページにツッコミを入れる。


 先生はその名の通り骨太なストーリーが売りなのだが、いかんせんこのパターンが多い。


 勇者が川に落としてしまったプロテインを拾った少年が、闘技場でチャンピオンになる話しも。


 聖女のため最高の牛乳を探す旅に出た仲間のカウボーイが、タコス屋の雇われ店長になった話も。


 あれもこれも”それはまた別のお話し……”だった。



「はぁ、次は半年後か……」


 今では珍しくなった紙媒体のマンガ本を大切に棚に並べ、ロックを掛ける。


 こうしないとワープ航行時に散乱してしまうからだ。


 沈んだ気持ちを仕事モードに切り替え、部屋を出て操縦席に座る。



「ナビ。準備は出来てるか? 」


「ピピ。モンダイ、アリマセン」


 ナビと呼んでいるが、こいつは補助AI。


 宇宙船の整備から道案内、そしてグルメ情報までなんでもござれの一隻に一台の優れものだ。


 こいつのおかげで、小さいながらもリッパなこの宇宙船”フェアリー号”を俺一人で操縦が可能ってわけだ。


 ……本当は、物置で大きないびきをかいてる大飯食らいにも手伝わせたいのだが。


 俺の仕事は惑星間を行き来して、物を運ぶ”運び屋”だ。


 でも正式なライセンスを所持していない、いわゆる”モグリ”である。


 そんな俺だから来る仕事がある。


 今回の仕事はアルタイルからベガまでの仕事を受けた。


 やけに金払いがいい商人からの仕事で、小包を一つ届ければそれで終わり。


 ワープ航行を使って片道三日ってところか。



「行くぞ、ナビ! フェアリー号発進! 」


「ピピ。フェアリーゴウ、ハッシン! フェアリーゴウ、ハッシン! 」


 この仕事で目標にしていた金額に大きく近づく。


 俺、金が貯まったら故郷で幼馴染と結婚して小さなカフェを開くんだ。


 しかしこの時の俺は知らなかった……。


 この小包がアルタイルとベガ、二つの惑星を、いやこの全宇宙を巻き込んだ大騒動になるなんて。


 でも、それはまた別のお話し……。


 

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