第8話

ティツ村周辺における魔物の痕跡を元に魔物の存在の有無の検証及び討伐を行うため、俺たちはヴァンキッシュの討伐準備を開始した。


家の右奥の納戸は、俺が用いる武具を修める武器庫とそれらのメンテナンスを行う工房を兼ねている。


俺が選んだ防具はなめした動物の皮をベスト状に仕立て、裏地に金属片をリベッドで打ち付け強度を高めたブリガンダインだ。


金属鎧は防御力に秀でるが屋外での探索に不向きなため、今回はチェインメイルは着用しない。


ブリガンダインは丈夫で軽く(あくまで板金鎧などに比べて、だが)、高い耐久性と修復しやすいメンテナンス性がウリの防具である。


ティツ村にも鍛冶師はいるが金属鎧や剣などの武具の専門ではなく鍬や鋤、鋏などの農具を専門としているため、専門的な鍛冶師のメンテナンスが定期的に必要となる武具は使いづらい。


手入れがしやすく、かつ丈夫なブリガンダインは俺の現在の環境にとても適した防具と言えるのだ。


騎士のように目立つ必要はないので、色は黒に染め上げてある。


それを身に付けると、壁に立てかけてある武器に目をやる。


今回は複数体のヴァンキッシュと戦闘になる可能性が高いため、近接と遠隔両方の武器を用意しておいたほうが良いだろう。


弓は取り回しがしやすい、丈が短く屈曲した型の短弓コンポジットボウにした。


ロングボウのほうが射程が長く威力も圧倒的なのだが、今回の想定されている戦場は視界の悪い森や洞窟だ。


取り回しがよく速射性の高いコンポジットボウのほうが適性が高いと判断した。


複数の敵を同時に相手する時にも便利な武器なので、俺はロングボウよりこちらの弓を使用することが多い。


動物の腱、木、骨、角など複合素材を貼り合わせて作る弓なのでコストが高くつくのが難点だが、それに見合うだけの価値がある武器だ。


そして相棒と言える俺のメインの武器は壁に立てかけてある両手、片手両用の大剣バスタードソードだ。


斬ることも突くこともできる万能タイプの剣で、重武装の相手には片手による刺突で、軽装の敵は両手で持ちパワーで薙ぎ払う。


取扱いにそれなりの筋力と修練を要するが、それに見合うだけの価値がある武器だ。


このバスタードソードは刀身に柄、はては鞘にいたるまでが全て漆黒に染まっているがこれは別に俺の趣味というわけではない。


最後にハンガーにかけてあるマントを羽織ろうとしたとき、扉の外からキルシュが呼びかけてきた。


「ザイ、準備はいい?」


「はい、お待たせしました」


装備を整えて納戸から居間に出ると、キルシュも装備を終えていた。


若草色のローブにマントという軽装だが、布地には金糸による見事な刺繍が施されておりキルシュの色白の肌によく合っている。


そして右手には、彼の身長並みの長さがある木製の杖が握られている。


この世界の中心にあるという伝説の世界樹ユグドラシルより与えられた枝の一本から創られたそれは、魔法文字と呼ばれる金色のルーンがびっしりと刻まれている。


アーティファクトと呼ばれる魔法の遺物である。


魔法は魔術の域をはるかに越えた奇跡を発現する魔の法則であり、現代の魔術師では再現することのできない強大な力を秘めている。


それが証拠にこの杖はすでに千年を超えて存在しているが、傷一つなく籠められた力の減退も一切ないという。

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