第7話
「はい」
俺は居間の片隅に筒状に丸めてある羊皮紙の地図を手に取り、テーブルの上に広げた。
ティツ村を中心にしたザールラント地方の地図だ。
キルシュが村から北西にある森を指さした。
「ライナーさんがこの死骸を見つけたのは、この森?」
「へぇ、よくお分かりで」
「このあたりは森はドングリが実るナラの木が多いからね。それを餌にする小動物やイノシシなどをはヴァンキッシュたちにとってご馳走になる。その付近で暗くジメジメしていて、水が多い場所が候補地なんだけど……」
「ふむ、その条件だと川の付近か洞窟が候補になりますなぁ。確か森から北に向かった山の付近にいくつか洞窟があって、その付近には川があったはずですよ」
森の北側には山々が連なっている。
その付近に洞窟があることは初耳だったが、ライナーの言う通りそこが産卵場所の可能性が高そうだ。
キルシュも同じ考えだったようで、
「うん、そこがあやしいね。よし、午後になったら早速調査にいってみようか。繁殖地は早めに叩いて置きたいからね」
「現地まで案内しますよ、先生」
「いや、ライナーさんは家に戻っておいて。調査はボクとザイでやっておくよ」
断られて些か残念そうな顔をするライナーだったが、魔物が出現するかもしれない場所に、狩人とはいえ戦闘訓練を受けていない一般人が立ち入ることは危険すぎる。
それではよろしく頼みますとライナーが頭を下げて帰ると、ドアが閉まったことを確認してからキルシュが俺に顔を向けて口を開いた。
「ねぇ、ザイ。村のこんな近くに魔物が現れるなんておかしいと思わない?」
「はい。俺が貴方と契約してこの村に来てから一年、その間にこれほどの距離で魔物が出現したことはありません」
魔物は人類すべての脅威であり、魔術師と護衛士にとっても当然討伐すべき対象だ。
しかし魔物を討伐する仕事は何も魔術師と護衛士だけが担うものではない。
「この村の周辺にも、採集や魔物討伐など依頼を受けた冒険者が来ているはずですね」
「付近に冒険者がウロウロしていれば、魔物たちも警戒して無暗に近づくことはない。とんでもない大物がきたというならば話は別だけど、それならボクやザイが接近を感知できるはずだよ」
「そもそもそのような魔物が現れれば、周囲の環境にも影響がでますしね」
魔物の中でも特に強大な存在は「災害種」と呼ばれ、体に含む魔素の濃度が濃すぎることから周囲の自然環境に影響を及ぼすことがある。
例えば作物の実りが極端に悪くなったり、人や家畜などの動物が疫病にかかりやすくなる、なおりにくくなる、精神が不安定になるなどだ。
文字通り世界に「災害」をもたらす存在のため、このような魔物の発生が確認された場合は国を挙げて討伐されるのがセオリーだ。
「うん。ヴァンキッシュ程度なら、それなりのランクの冒険者がうろついているだけで警戒して、人里には接近してこないはずだよ」
魔物も自然界の動物と同じように、危機を感知する能力を持ち合わせている個体がほとんどだ(稀にそういった感覚を持ち合わせていない本能のみで動く個体もいるが)。
小さな群れを形成して繁殖を行うヴァンキッシュならば、自分たちの脅威となる冒険者がうろついている場所などに姿を現すはずはないのだが……。
「この村の付近もしくは周辺の冒険者、どちらかに異常が起きているのかもしれないね。とまれ、いくらここで思案を重ねても机上の空論の域をでないね。ここはフィールドワークに出て、検証してみようじゃないか」
「わかりました。準備を開始します」
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