第16話
「――……あの教師……。中々に機転が利くようですな……」
ロビン・クリストファーとルゥ・カンガストが窮地を脱した、その直後。
場所はゲオルギウス学園の本城上部。昼休みの終了をもうじき告げる、大鐘の下にて。
鐘が生み出す影の中から、髑髏の仮面を被った人物が、ヌルリと現れる。
腕も足も見えず、黒いボロボロの布に全身を包んでいる、その者は――首席合格者、オルアナ・マーカスの背中に語り掛けた。
「いかがなさいますか、お嬢様……」
「……監視を続けなさい。何か不審な動きがあれば、逐次報告して」
「かしこまりました……。では……」
そして髑髏の仮面は、オルアナの背後に伸びる影へと潜っていこうとする。
まるで沼に沈んでいく木の葉や花弁、もしくは哀れな鳥のように。ずぶずぶと身体を埋めていく。
「……あぁ、少し待って。スワンプマン」
「何でしょう……」
囁くような声と共に、髑髏の仮面――『スワンプマン』は、沈下を止める。
オルアナは背後を振り向かず、鐘楼の中で立ち続ける。
冷たさの残る春風に、銀色の長髪をなびかせ。小型の望遠鏡で
「彼の経歴に、間違いはなかったのね?」
「……貴女様にお渡しする情報は全て、確認と、第三者による再確認と、最終確認を経てから報告しています……。信ぴょう性に乏しい場合は、その旨も合わせてお伝えしているはずですが……」
「……そうね。別に疑っているわけじゃないのよ。ごめんなさい、ありがとう」
「いえ……。では、私はこれにて……」
そして今度こそ、スワンプマンは主人の影の中へと、ずりゅぅうっ……と姿を消していった。
「ロビン・クリストファー……。カノン平原の英雄……」
望遠鏡を下ろしたオルアナの視線は、遠方の新任教師を射抜く。
突如、この学園に現れた男。宮廷魔導士試験を八年間も受け続け、しかし年齢制限で受験資格を失ったために、ゲオルギウス学園に来たとされている。
ただの偶然にしては出来過ぎており、それでいて誰かの作為があるとも考えにくい。
だからこそ、サファイア色の瞳で、彼の姿を見つめていた。
「……見極めさせてもらうわ。私の迷いを、欠片も残さず消し去るために……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます