帽子
もちっぱち
帽子
僕には三分以内に
やらなければならないことがあった
よく晴れた朝の忙しい時間に
僕はゆったりとアニメを見ていた。
お母さんに声をかけられた。
「ちょっと、帽子は?」
「え!知らないよ。お母さんでしょ
昨日僕はここのソファに
置いていたもん。」
「あーー、もう、バス来ちゃうよ。」
「えーーー、無いよ。」
「無くてもいいよ。
もう行こう。
先生に説明しよう。」
「やだ!かぶらないとやだ。」
「んじゃ、探してよ!!
どこにも無いじゃない。
帰ってきてから帽子もバックも投げて
置くからだよ。」
部屋の中を
あっちに行ったり
こっちに行ったり
探し回る。
「それはお母さんのせいだ。」
「あーーーそう言うこと言う。
んじゃ、お母さん何もしないよ。
全部自分でしてね。」
「やらないもん。
お母さんがするんだよ。」
「そういうこと言う人の言うこと
聞けません。」
「やだ!!」
「やらない!!」
「……ごーめーんなーさーい!」
「謝ってもパンチするもん。」
「パンチしないからーー。」
「えーーー。」
「気をつけるからぁ。
許してください。」
「……もう仕方ないなぁ。
次は気をつけてね。
帽子!準備してって言ってるのに
ずっとアニメ見てるからだよ。」
「……準備します。」
「それならよろしい。」
玄関のドアを開けて
バス停まで走って行った。
帽子はかぶらなかった
本当はみんなと同じじゃないから
ものすごく行きたくなかったのに。
時間もないしお母さんもうるさいし
行くしかない。
駄々をこねても、
今はきっと無理なんだろう。
バスがやってきた。
手を繋いで進んだ。
幼稚園の先生に
お母さんは
帽子が行方不明だと
説明してくれた。
大丈夫ですよと先生が言っていた。
バスの中、
帽子を被らないのは僕だけだ。
ドキドキするけど、堂々と座席に座った。
先生には大丈夫だよと声をかけられる。
バスの窓の外、お母さんが
手を振っている。
僕は幼稚園から帰ってきたら
三分以内に
やらなければならないことがある。
帽子を探すことじゃない。
お母さんのご機嫌をとることだ。
【 完 】
帽子 もちっぱち @mochippachi
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