◆第4章 木羽明日香
(1)
◆第4章 木羽明日香
1
目を覚ますと見知らぬ場所にいた。
薄暗い部屋である。
がらんとしていて何もない。狭くて無機質な部屋。洞窟のような暗闇の中、天井に埋め込まれた照明が弱々しいオレンジ色の光を投げかけていた。
わたしはどうやらベッドの中にいるようだった。
ごわごわした服を着て、体には毛羽だった毛布が掛けられている。
――ここは……どこ?
わたしはゆっくりと体を起こした。
頭が割れるように痛かった。
後頭部がずきずきと脈打っている。そして、体がとても熱い。悪寒で震えが止まらず、視界はぐにゃりと歪んでいる。何ひとつまともに考えられない。まるで脳味噌が蟲に喰われているみたいな気分・・・・・・
――おおお――おおん――おおおおおん――
どこかから、低い音が聞こえてきた。風の音のような、大きな機械が動いている音のような……。
わたしは霞む目を凝らし、自分がいる部屋をゆっくりと見回した。
広さは五畳くらいだろうか。天井が低く、床はフローリング。窓はない。わたしの眠っていたベッドは部屋の奥にあって、その対角線上に扉がひとつある。
――どうしてわたしはこんなところにいるの?
わたしは記憶の糸をたどろうとしたが、酩酊したように頭が覚束なかった。たしか、わたしはバイクに乗っていたはずだ。それなのにどうしてこんなところにいるんだろう。
――おおおうううおおん――うおおおん――
風の唸り声のような音。音のする方を見上げると、古ぼけたエアコンが暖風を吐き出していた。音の正体はこれだったのか、とわたしはぼんやり考える。
――いや、違う。
そんなことはどうでも良いんだ。
これが夢じゃないなら、わたしはどこにいるんだろう。
たしか。
たしかあのとき、わたしは――
バイク……峠道……雨……
冷たい雨……
雨・・・・・・雨・・・・・・雨……
――おおおおおん――おおおおおおおおおおおん――
だめだ。
頭が痛くて何も考えられない。
喉がからからに乾いて、手足が思うように動かない。視界がどろどろと溶け出して、これ以上目を開けていられそうもない……
潮が引いていくようにゆるゆると、わたしはまた無意識の世界に戻ってゆく。
目蓋は下がり、深い海の底へ沈むように、わたしの体は下へ下へと落ちてゆく……
と、そのとき――
足音が聞こえた。
2
その足音は頭の上の方から聞こえてきて、徐々に大きくなっていった。
――ぎっ、ぎっ、ぎっ、ぎっ……
木が軋むような音。祖父の家の階段を踏むと、こんな音がしていた。眠っているとも起きているとも云えない朧気な意識の底で、わたしはその音に耳を澄ます。
――誰だろう。
わたしはぼんやりと――しかし同時に云いようのない胸騒ぎを覚えつつ、天井を見上げた。
音はだんだん近づいてきて――止まった。
誰かが扉の前にいる。
わたしは頭を横に向けて、黒い扉を見つめた。扉の開く音がして、誰かが部屋に入ってきた。わたしは焦点の合わない目をそちらに向けた。
戸口に立っていたのは、背の高い影法師だった。薄暗い光の中で、顔が墨で塗りつぶしたような影になっている。
目が覚めたんですね――と影法師は云った。
男の声だった。
ぱちり、と音がして、頭上に白い光が灯った。男が部屋の明かりをつけたのだ。強烈な光のまぶしさに、わたしの目は白く眩んだ。
男がこちらへ近づいてきて、わたしのすぐ側に立った。男の顔は逆光で見えない。どうやらわたしの顔をのぞき込んでいるようだ。なんだか怖かった。
――誰?何なの?
わたしはそう尋ねたつもりだったが、口から出てきたのは譫言のような呟きだった。
「無理しないでください」と男は云った。
聞き覚えのある声だった。わたしが眠りの中にいるとき、夢うつつの境で聞いていた声。
「――誰?」
影に向かってわたしは声を絞り出した。嗄れたような囁き声だった。
その声が聞えなかったのか、男はわたしの問いかけには答えず、逆に訊いてきた。
「体の具合はどうですか」
寒い、とわたしは口の中で答えた。
すると男は「熱を測ってください」と体温計を渡してきた。わたしはのろのろと指示に従った。体が自分のものじゃないみたいで、ひどくもどかしかった。
「ここはどこ?――どうしてわたしは――ここにいるの?」
体温を測りながら、わたしはたどたどしい言葉で訊いた。うまく舌が回らなかった。
「覚えていませんか」
わたしは首を横に振る。
「あなたは事故に遭ったんですよ。バイクで転んで、ずっと雨の中にいたんです」
男の言葉が呼び水となって、ゆっくりと記憶が蘇る。
――そうだ。
わたしは事故に遭ったんだ。
横転し、投げ出され、気を失った。
気づくと雨にうたれ、体の芯から凍えていた。
遠のきかけている意識の中で、自分は死ぬんだろうかと何度も考えた。
寒くて、痛くて、そしてそれすら次第に感じなくなっていく。
だけどうっすら覚えている。
大丈夫ですか、という男の声。
この人はわたしに肩を貸して運んでくれた。
わたしを助けてくれたんだろうか。
――ぴぴぴぴぴぴぴぴ――
体温計が鳴った。
男は体温計をわたしから受け取ると「三十八度ある」と云った。そのとき、光の加減で男の顔がわずかに見えた。
端正な顔立ちの男だった。
柔らかな髪の毛に、細い顎。薄い唇。まつげの長い物憂げな目。全体的に女性的な印象で、肌がとてもきめ細かかった。
わたしの記憶が蘇る。篠突く雨の峠道で、車から降りてきた色白の男。
そうだ、わたしはこの人に助けられたんだ。
「無理に起きなくて良いですよ。体中怪我をしているみたいですが、特に左足がひどい」
男が云った。
「骨折か捻挫かは分かりませんが、かなり腫れています。一応、簡単に固定していますが、あまり動かさない方がいい」
わたしは自分の足を見る。毛布からにょっきりと、包帯の巻かれた足が突き出していた。足は添え木のようなもので固定され、氷嚢がタオルを使ってあてがわれている。不思議と痛みはそれほど感じなかった。だけど他の感覚もなかった。そこにはただ、鈍く熱を持った疼きがあった。自分の体の一部とは思えない感覚だった。
「助けて――くれたんですか」
わたしは尋ねた。彼は困惑したように眉を寄せた。
「ある意味ではそうかもしれませんが」
歯切れの悪い言葉。わたしは続けて尋ねる。
「ここは――どこ?」
男はわずかに逡巡したが、「ぼくの家です」と答えた。
わたしは戸惑う。そして尋ねる。
「――どうして」
男はしばらく思案した後、答えた。
「正直に話しましょう。すぐに分かることでしょうし」
男の顔からは表情が読み取れなかった。感情の起伏のほとんどない、疲れ倦んだ人形のような顔。男はわたしに目を向けたまま、眉ひとつ動かさずに云った。
「ぼくはあなたを誘拐しました」
あまりに淡々とした物云いに、すぐには言葉の意味を呑み込めなかった。
ユーカイ。
ゆうかい。
誘拐。
つまり、わたしを攫ってきたということ――
分からない。どういうこと。分からない。
「峠道で倒れていたあなたを連れて帰りました。ここはぼくの家の地下室です」
外国語を翻訳したときみたいに、言葉の意味は遅れてやって来た。しかしそれでもなお、わたしは男の云うことを理解できなかった。ただ不吉な予感だけが、蛇のように鎌首をもたげて、わたしが隙を見せるのをじっとうかがっていた。
何かの冗談。それとも聞き間違いだろうか。いや――
きっとまだ夢を見ているんだ。
だって、あまりに現実離れしている。ほら、頭がこんなにぐらぐらして、耳鳴りがする。顔が熱い。酩酊しているときのように、視界全体が歪んでいる。
わたしは口を開こうとした。だけど言葉が見つからず、再び閉ざさざるを得なかった。分からないことが山ほどあったが、熱で頭が働かず、どれも言葉にならなかった。
「服を脱いでください」
わたしはぎょっとして男の顔を見た。思わず目を奪われそうになるほど整った顔立ち。その色素の薄い鳶色の瞳に、わたしのやつれた顔が映っている。
「安心してください、体を拭くだけです。汗が冷えるといけないので」
男が人形のような顔をわたしに近づけてくる。
「服、自分で脱げますか」
男の言葉は電波の合っていないラジオのようで、ぐわんぐわんと耳鳴りのように聞えた。
「やめて」
わたしの声は震えている。恐怖しているのだ。
「お願い、何もしないで……お願いします」
男が何か云っている。だけど、わたしの耳にはエアコンの唸り声だけが聞えている。
――おおおおおおおおん、おおん、おおん――
おもむろに、男がわたしの体に手をかけた。わたしの服を脱がそうとしている。
やめて。
抵抗しようと思ったが、力が入らなかった。
「大丈夫です」と男は云った。
男はわたしの体から服を脱がせた。
黒いスウェットを脱がされ、男の前で下着姿になる。
男の云うとおりひどく汗をかいていた。悪寒が走り、わたしはぶるりと震える。その震えはきっと、冷たい空気に肌をさらしたせいだけではないだろう。
厭だ。
厭だ、厭だ――厭だ。
どうしてこんな目に遭わなければいけないのか。
屈辱と惨めさに顔が熱くなる。喉の奥から嗚咽がこみ上げてくる。
何なの。
何がしたいの。
わたしをどうしたいの。
わたしを誘拐したって、この人は本気で云っているの。
わたしは男を問い質そうとするが、口から出るのは空気の抜けたような言葉のなり損ないばかりだった。
男はわたしの体をわずかに起こし、わたしの手足に巻かれた包帯をほどいていった。血の滲んだ包帯がベッドの下で蛇のようにとぐろを巻き、負傷した左足が露わになった。足首周辺が蒼く腫れており、下腿部から大腿部にかけていくつも傷ができていた。
男は濡れタオルのようなものを取り出し、わたしの体に手を伸ばした。
温められたタオルが肌にあてがわれる。
思わず体が硬くなる。わたしの腕が、腹が、胸が、男の手によってぬぐわれる。
――彼はわたしを犯すんだろうか。
わたしはどこか他人事のように考えていた。
――彼はわたしを誘拐したと云った。
――なんのため?
――目的はわたしの体?
――好きなようにさせてやったら、わたしは家に帰れるの?
朦朧とした頭でそんなことを考える。
男は手にした濡れタオルで、わたし体を丹念に拭いていった。びっしょりと寝汗をかいていたので、自分でも体が臭っているのが分かった。こんな状況でもかすかな羞恥を覚えた。
「体、冷えていますね」
男はわたしに後ろを向かせ、今度は背中から腰を拭っていく。ときおり濡れタオルが傷口に触れ、そのたび小さく声が漏れた。男の手が腰回りから足の方に伸びる。慎重な手つきで傷を避けるように拭く。清拭を終えると、男はアルコール綿で傷口を消毒して、再び包帯を巻き、足首を添え木で固定した。包帯の巻き方は素人だった。
「着替えを持ってきました」
男は紙袋から服を取り出し、わたしに着せていった。黒っぽい部屋着の上下。体が思うように動かず、ひどく時間がかかった。服のサイズは少し窮屈だった。
男に犯されることを覚悟していたわたしは、熱でぼうっとしながらも、男にその意志がなさそうだとようやく理解した。
――少なくとも、いまはまだ。
張り詰めていた神経が少しだけ落ち着きを取り戻した。
――おおおん、おおおおおおううん――
「どうして――こんなことするの」
わたしは男に尋ねた。
男は少し考えた後、「まだ知らなくていいです」と云った。
「だけど、ぼくはあなたに暴力を振るうつもりはありません。レイプする気もない。それは約束します」
男はそう云うと立ち上がった。そして口を開きかけたわたしの言葉を遮るように云った。
「食事を置いていくので、しっかり食べてください。食事は朝と晩の二回持ってきます。明日の朝また来ますので、食べ終わった食器はまとめておいてください。薬もありますから、食後に飲んでください」
男は事務的な口調で続けた。
「部屋の明かりは消せないようになっています。昼は蛍光灯、寝るときは常夜灯にしてください。あと、他に何か欲しいものがあれば云ってください。できる限り用意します」
そう云うと、男は黙ってわたしに背を向けた。そしてもう用は済んだとばかりに、扉へと歩いていった。
「待って」とわたしはその背中に呼びかけた。
「お願い、行かないで」
しかし男は振り返らなかった。男は扉に手をかけて、ゆっくりと開いた。
「なんで――わたしなの」
わたしがそう問いかけると、男は首を捻ってこちらを振り向いた。
「あなたは――運が悪かったんです」
男はそう云って扉を閉ざした。
3
「いやだ、待って、行かないで」
男が出て行った後、わたしは閉ざされた扉に向かって叫んだ。
「いやだ、ここから出して――出してよっ」
叫ぶたびに頭が割れるように痛んだ。ぐるぐると目が回り、吐き気がこみ上げてきた。視界は霞んでいまにも倒れてしまいそうだった。わたしは男の後を追うようにベッドから床に降りた。足が床についた途端、激痛が電気のように左足を走り抜けた。
思わず声が漏れ、わたしはベッドの足元にうずくまった。
そうしているあいだにも男の足音は徐々に遠ざかっていった。
わたしは歯を食いしばりながら顔を上げ、もう一度叫ぶ。
「ふざけないで――ここから出して――家に帰して――」
しかし答えは返ってこなかった。しんと静まりかえった部屋の中に、わたしの声が虚しく吸収される。そして、どこか頭の上の方で、扉の閉まるような音が聞える。
――いやだ――こんなのいやだ――
ほとんど半狂乱になりながら、わたしは床に膝をついて四つん這いになり、黒い扉へ向かって蜥蜴のように這い進んだ。フローリングの床は冷たく、埃で汚れていた。しかしそんなものはまったく気にならなかった。
金属製の黒い扉。わたしは膝立ちになり、その把手に手をかける。
――開かない。
もう一度、強く把手を回すが、やはりびくともしない。
当たり前だ。さっき男が鍵を掛けた音をしっかりと聞いている。開くはずがないのだ。
しかし、そのことが分かっていながらも、もう一度、さらにもう一度とわたしは無茶苦茶に把手を回した。もちろん扉が開く気配はなかった。
わたしは扉の覗き窓に目をやる。長さ数十センチほどの隙間――しかし、男が去り際に向こうから蓋をしてしまったため、扉の外がどうなっているのか見ることはできない。
わたしは扉を拳で叩いた。銅鑼を鳴らすような音で無慈悲に弾き返される。例えわたしが怪我を負っていなくとも、絶対に破れないことは確かだった。それでもわたしは、自分の手が痛くなるまで扉を叩かずにはいられなかった。扉を叩きながら、わたしは男に呼びかけた。
ここを開けて。ここから出して――
わたしの声が部屋の中に虚しく響いた。
だけど、どれだけ扉を叩こうと、どれほど声を枯らそうと、叫んでも、懇願しても、呪っても……わたしの声は無慈悲にも思える静寂の中に霧散するだけだった。わたしの声は次第にか細くなってゆき、扉を叩く手から、力が少しずつ消えていった。
どれほどそうしていただろう。やがて海の底のような静けさが訪れた。エアコンから暖風の吐き出される音が、独りきりである事実を厭でも際立たせた。
わたしは力尽き、床に崩れ落ちた。
寒い。
そして、痛い。
いちばん痛いのは左足だ。熱した釘が刺さっているみたいに疼いている。捻挫か骨折かは分からない。だけどこれでは歩くのはおろか、立ち上がることさえままならない。
視界が歪む。額を脂汗が流れ落ちる。
どうやったらこの部屋から出られるのか――混乱と恐怖。涙が出そうになるのを、奥歯を噛みしめて堪える。
わたしは扉にもたれて床に座り、痛みをやり過ごすように小刻みに呼吸を繰り返した。
硝子瓶の底を通してみるように歪んだ視界。そこに映し出されているのは、独房のような部屋だった。
わたしは改めて部屋の中に目をやった。
狭い部屋――たぶん、五畳もないだろう。
傷んだフローリングの床とくすんだ色の壁紙。窓はない。低い天井には電灯が下がっていて、蛍光灯の放つ白い光が、部屋の中を冷たく照らし出している。
ベッドの横に、質素なテーブルと木の椅子がある。男が置いていった食事と着替え、尿瓶、そしてわたしの着ていた服や荷物が乗っている。部屋の隅にはトイレがあった。介護現場や被災地で使われるような、バケツに便座をつけたような簡易的なものだった。
わたしは戸口からテーブルまで体を引きずって行き、畳まれたライダースジャケットの上に置かれた鞄を手に取った。わたしの鞄。看護学生時代に付き合っていた彼氏が、就職祝いに買ってくれたツーリング用の小さなバッグだ。もう肩紐のあたりがぼろぼろで、元彼からの贈り物なんて捨てちゃえばいいのに――と周りからは云われていたが、なんだかもったいないので使い続けていたのだ。
わたしは鞄の中身を探ってみたが、予期していたとおり、携帯電話は見つからなかった。
あの男に奪われたに違いなかった。あったのは飲みかけのペットボトル、財布、ボールペン、手帳、化粧道具……そして細い革ベルトの腕時計。時計の針は八時過ぎを指していた。
わたしはテーブルの横のベッドに崩れるように腰を下ろした。
なぜこんな目に遭わないといけないのか――
わたしはベッドの上で頭を抱えた。
うおおおおん――というエアコンの音だけが、ただ静かな部屋の中で響いていた。
* * * * *
その夜、わたしはほとんど眠れなかった。
眠れるはずがなかった。
ここからは出られない――わたしはそう悟った。
発作的な恐怖が幾度もわたしを襲った。
自分の身に起きたことが現実だと認めたくなかった。
これは嘘。
それか、悪い夢。
熱で朦朧とした頭で、そうであって欲しいと願った。だけどいつまでたっても悪夢は覚めなかった。
悪寒と恐怖に震えながら、まんじりともせずに夜を明かした。
熱は確実に上がっていた。頭は火がついたように熱いのに、背中や足先は芯から凍えていた。わたしは胎児のように体を縮こまらせて、ベッドの中でぶるぶると震えていた。体を覆う毛布は薄っぺらく、何の足しにもならなかった。
夜更けに尿意を催し、男が置いていった尿瓶を使って用を足した。生温かい湯気が立ちのぼり、部屋に臭気が残った。わずかに尿がこぼれて服についたのが、溜まらなく不快だった。
夜通し、わたしは覚束ない頭で自らに問いかけた。
わたしは助かるんだろうか――と。
乱暴はしないと男は云った。
だけど、信じるだけの根拠がどこにあるというのか。
殴り、蹴り、犯し、わたしが苦しんでいるところを見て、あの男は笑うのかもしれない。
そして――最後には殺されるのかもしれない。
厭なニュースの記憶がいくつか頭に浮かんだ。
監禁と陵辱の末、ついには殺された女たちのニュース。
痛ましいと思いつつも、やっぱりどこか他人事として聞き流していた事件。それが自分の身に降りかかるなんて、真剣に考える人がいったいどれほどいるのだろうか。
わたしはただ怯えることしかできなかった。
眠れずに過ごす夜は永遠に続くかのようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます