第12話 入院中にあったあれこれの話② 夜の嵐編
今回は、左膝人工関節置換術を受けた話の続きの続き、のお話をさせていただこうと思います。
手術中に意識が戻ったり、緊急呼び出しボタンを連打したりと、ちょっとした(?)ハプニングはありましたが、とっても順調に回復していた私。
いよいよ個室から大部屋へと移ることになりました。
看護師さんが手際よく私の荷物をまとめると、私を新しい病室へと連れて行ってくれます。
連れてこられた大部屋は6人部屋。窓際でも通路側でもない真ん中に位置するベットが私の新しい寝床です。
私は病室の皆様に『花京院です。よろしくお願いします』と、愛想よく挨拶をして回ります。
おや? 左隣のベットには誰もいませんねぇ……
聞けば、今ちょうど手術 (治療) を受けているんだとか。
大した手術ではないので個室には入らず、ここ (大部屋) へ帰ってくるとのことでした。
しかし、左隣の方について語る同室のおばさま達が、何やら意味深な笑顔を浮かべています。
なんでしょう、……何やら嫌な予感がします……
気にはなりましたが、まずは、同室のおばさまたちとの交流を深めることの方が大切でしょう。
私は息子ちゃんの話を取っ掛かりに、おば様たちとの交流を図ります。
おばさま達からは『それじゃあ息子ちゃんのためにも、早く退院してあげなくっちゃね〜』と、励ましの言葉をもらい、今度は私がお孫さんのお話を聞かせてもらったり……
私は、おばさま達と談笑を交えながら交流を深めます。やがて、病室は和やかな空気に包まれました。
そんな和気あいあいとした雰囲気のなか、車椅子に乗せられた一人のお婆さんが、看護師さんに連れられて病室へ入ってきました。
どうやら、この方が私のお隣さんのようですね。
どれ、まずはご挨拶を……
私が愛想笑いを浮かべながら『よろしくお願いします』と言おうとした、まさにその時……
「もう、嫌ーッ! 早く家に帰してーー!!」
いきなり、お婆さんが髪を振り乱しながら、癇癪を起こしたように叫び出しました。
突然の出来事に、私が呆気に取られている間にも、お婆さんは大声で叫び続けます。
『家に電話して!』とか『息子に迎えに来るように言って!』とか、更には『助けてーッ』とか『こんなところにいたら殺されるーー!!』なんて言葉まで飛び出しています。
……そうです、私のお隣さんは『モンスターペイシェント』(困った患者さん) だったのです。
当然ながら、病室に広がっていた和やかな雰囲気は、あっという間に霧散!
騒ぎを聞きつけた周囲の病室からは、大勢の野次馬が集まってきて、あたりは騒然とした空気に!
おばさま達の微笑みの理由は、これかぁぁーッ!!
私は『君子、危うきに近寄らず』作戦を取ることにして、病室では大人しく過ごすことにしました。
そして、時間は流れて時刻は深夜の12時過ぎ。
言うまでもなく、病棟はとっくに消灯している時間なのですが、お隣のお婆さんは一向に眠る気配がありません。
それどころか、スナック菓子の袋をバリッと開けると、ボリボリ、ムシャムシャ……と、勢いよくお菓子食べ始めてしまいました。
しんと静まり返った病室で、薄いカーテン越し聞こえてくるお婆さんの咀嚼音……。
ぬおぉ〜! み、耳元でクチャクチャと……耳に付いて寝られないぃ!
もう、本気でナースコールしようかな、と思い始めていたその時でした。
ガタガタッ! ドッダァーーーーン!!
家具が転倒したような凄まじい音が響き渡ったかと思うと、カーテンの向こうから、ちょっと重量感のある一抱えほどの『謎物体』が飛び込んできました。
しかもその謎物体、事もあろうに私の左膝の上に落ちてきました。
ギャアァァーー!! ひっ、膝が、膝がぁぁーー!!
一体、何が起きたのかというと……
隣のお婆さん。テレビ台に付いている簡易テーブルを使ってお菓子を食べていたのですが、テーブルに寄りかかりすぎて、テレビ台を倒してしまったのです。
その拍子に、テレビ台の上に置かれていたテレビ (今では見ないテレビデオ) が私の方へすっ飛んできて、あろうことか私の膝の上に落下。
幸い大事には至りませんでしたが、お菓子が辺り一面に飛び散るわ、テレビ台はぶっ壊れるわ、騒音に驚いた同室のおばさまがベッドから抜け出して転倒するわ、看護師さんや野次馬が詰め掛けるわ……
それはそれはもう、大変な騒ぎになりました。
結局、そのお婆さんは、翌日に強制退院することに相成りました。
げんなりとした顔で、お婆さんを迎えにいらした息子さん (といっても50代くらい) の姿が印象的でしたねぇ……。
まぁ、本人 (お婆さん) 的には希望が叶って、ちょっと嬉しそうでしたけどね。
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