第10話 トイレの神様
今回は、息子ちゃんが2歳のイヤイヤ期真っ最中だった時のお話を書かせていただきます。
あれは、息子ちゃんが保育園に通い始めて半年ほどが経ったある日のことでした。
その日は平日でしたが保育園は休園日。
私は息子ちゃんと二人、仲良くお留守をしておりました。
初めこそ大人しく一人遊びをしていた息子ちゃん。
ですが、しばらくすると退屈し始めて、かまってかまってと、食器を洗っていた私に纏わり付き始めてしまいました。
おかげで思うように家事を進めることができません。(あぁ、可愛い♡)
「息子ちゃん、危ないからちょっと離れようか〜」
「いやん! いっしょにあそぶのっ!」
息子ちゃんは私の足にすがりつき、(本人的には鋭いつもりの) とっても優しい口調で、一生懸命にそう訴えてきます。
あぁぁぁぁぁ! 可愛いぃぃぃぃ!!(親バカですが、何か?)
ここ最近、一段と我が強くなってきた息子ちゃん。こうなってしまうと、どんなに言い聞かせたとしても、絶対に引き下がることはありません。
仕方がありませんねぇ〜♪ これはもう、一緒に遊んであげるしかないでしょう〜🎶
私は食器洗いを投げ出して、息子ちゃんと一緒に遊びます。
『あい!』と手渡されたプラレール(貨車)でごっこ遊びをし、『よしよしして?』と手渡された子猫のぬいぐるみを、これでもか!というくらいのオーバーアクションで可愛がる。
私はそうやって、次々と息子ちゃんの要望に応えていきました。
すると、満足した様子の息子ちゃんが突然、トテトテと部屋から出ていきます。
「あれ? 息子ちゃん、どこに行くの?」
私は慌てて息子ちゃんの後を追いかけました。
トトト…と、息子ちゃんが、(本人的には駆け足のつもりの)ペンギン歩きでやってきたのは、おトイレでした。
「あ、おトイレ? えらいえらい♪ 自分でこれたんだねぇ〜、すごいねぇ〜」
トイレトレーニングも進み、おまるではなくトイレ (補助便座) を使い始めたばかりでしたので、私は、自らおトイレにやってきた息子ちゃんのことを思いっきり褒め称えました。
それでは…と、私はトイレの扉を開きます。
スルッ…と室内に滑り込んだ息子ちゃん。
続いて中に入ろうとした私を、なぜか息子ちゃんが外へと押し出し始めました。
「ママ、あっちいくの」
「え? 息子ちゃん、一人じゃ座れないでしょう?」
「ゔーー! ママ、あっちいくのぉーー!」
はい、イヤイヤ期ですね。
どうやらここで遊びたいだけで、おトイレがしたいわけではなさそうです。
これは、困りましたねぇ……。
自主性が出るのは結構なのですが、場所が場所だけに『はい、どうぞ♡』とはいきません。
なので私は、『おトイレで遊んじゃダ〜メ!』と言って、暴れる息子ちゃんをサッと抱えてトイレから連れ出しました。
部屋に連れ帰った息子ちゃんは、意外なほど大人しく一人遊びを始めました。
うーむ? もっと抵抗すると思っていたけど……まぁ、大人しくしてくれているならいいか。
それに、仮にトイレに行ったとしても、ドアノブに手が届かないだろうから大丈夫かな?
そう思った私は、そっとその場を離れると、ほったらかしにしてあった食器洗いをこなすために台所へ。
そうして、食器を洗い始めてしばらくした頃でした。
「うわああぁぁぁん!!」
突然、息子ちゃんの激しい鳴き声が聞こえてきました。
「!! む、息子ちゃん!?」
泣き声はおトイレ方面から聞こえてきます。
慌てて駆けつけると、おトイレの扉は開け放たれていて、そこから息子ちゃんが泣きながら飛び出してきました。
えっ!? ドアノブに手が届いたの!?
昨日までは届かなかったドアノブ……。
私に見つからないよう、コッソリとおトイレまでやってきた息子ちゃん……。
本当に、子供の成長の早さと、子供から決して目を離してはいけない、ということを思い知らされた出来事でした。
泣きながら、私に飛びついてきた息子ちゃん。
怪我はないようですが、何故か、右のこめかみの辺りがぐっしょりと濡れています。
はっ! ま、まさか!?
慌てて室内を覗き込むと、そこにはマーライオンの如く、勢いよく水を吐き出すおトイレが!
どうやら息子ちゃん、イタズラでウォシュレットのボタンを押してしまったようです。
すぐに水は止めましたが、おかげで室内はビッシャビシャです。
……ご満悦でボタンを押したんだろうなぁ。
電子音と共にノズルが出てきてワクワクして、それでグッと覗き込んで……。
で、ドキドキが最高潮に達したその瞬間に、ウォシュレットから攻撃(水噴射!)されてしまった、と。
そう思うと、笑ってしまいそうになりました……が! そうです! ここで甘やかしてはいけません!
ダメなものはダメと、キチンと言い聞かさなければならないのです!
「……息子ちゃん、ママおトイレで遊んじゃダメって言ったよね? イタズラしたから、おトイレさんが怒っちゃったんだよ?」
吹き出してしまいそうなのを必死に堪えながら、私はちょっと厳しめの口調で息子ちゃんにそう言い聞かせました。
すると息子ちゃん、突然私から離れるとトイレに向き直りました。
何をするのかなと思っていたら、ビシッと背筋を伸ばし、そして———
「ごめんなしゃい!ごめんなしゃい! わるいことはもうしましぇん!!」
———と、言いながら、ペコペコと綺麗なお辞儀(90度)を決めたのでした。
もちろん、こんな言葉使いも所作も教えていませんでしたから、本当にびっくりしましたよ……
すっかり板についているその謝罪姿に、『息子ちゃん、保育園でどんだけ謝っているんだ!?』っと思ってしまいました。
……恐るべし、保育園教育! (褒め言葉です!)
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