第9話 洗濯バサミの呪い
5月も終盤、随分と温かい日が増えてきましたね。
気温が上がるにつれて庭の雑草が勢いを増し、そこを棲家に虫が大量発生していて、とても困っている花京院でございます。
さて、今回は息子ちゃんが生まれる以前の、私たち夫婦がまだ新婚だった頃のお話を聞いていただこうと思います。
私たち夫婦は、3ヶ月というとても短いお付き合い期間で結婚しました。
ですので、結婚後に『えぇっ!? この人って、こんな人だったの!?』と、驚愕するようなことが沢山ありました。
たとえば、夕飯のおかず ( 唐揚げ ) を『味見』と称して一人で食べ尽くす。さらに『おかずが無いぞ!』と怒り出す。
他にも、引き出しの衣類を無造作に引っ張り出す。( おかげで引き出しの中はいつもぐしゃぐしゃ )
しかも、自分で荒らしておきながら、『おい!タンスの中がぐしゃぐしゃだぞ!』とクレームを付けてくる。などなど……
……そう、
夫は、大人になりきれていない、亭主関白気取りの『超・面倒臭い男』だったのです。
(あ、今はそれほどではありませんので、ご心配なく!)
後に、本人に聞いた話ですが、『妻を怒鳴りつけることで夫の威厳は保たれる』ものだなどという間違った知識を持っていたようです。
いったい誰から、そんなことを教わったんだか……(遠い目)
と、まあ、そんなこんなで、夫に対するフラストレーションが溜まりに溜まっていた、新婚時代のある日のことです。
私が家事をしていると、『おい、ちょっと!』と夫に強い口調で呼ばれました。
流石に結婚して数ヶ月にもなると、夫が何を思っているかは、声音で分かるようになります。
いったい今日はどんな難癖をつけるつもりなんだろう……
私はため息を吐きながら、重い足取りで夫のいるベランダまで行きました。
すると、そこで待ち構えていた夫は、『お前は本当にだらしがないな! この洗濯物を見ろ!』と言いながら、ベランダに干された洗濯物を指差します。
ん?綺麗に干せていると思うけど? その洗濯物の何処に不備が?
訳が分からなくて、私が説明を求めると、夫は『そんなことも分からないのか』と言いながら、洗濯バサミを指さして——
「色! 洗濯バサミの色が左右で揃ってない!」
——と、一喝。
…………は? 色?
……
しょーもない…心底、どーでもいいわ……
冷めた目で夫を見つめる私。夫は私のその態度が気に入らなかったのか、言い合いが始まり、それが徐々にヒートアップ。そして、犬も食わない大喧嘩へと発展……。
夫は最終的に『とにかくお前が悪い』と捨て台詞を吐くと、ベランダに干してあった下着を引っ掴んで、そのまま風呂に入ってしまいました。
むおぉぉぉ!! 腹立つぅ!!
今日もまた一つフラストレーションが溜まった私。イライラしながら家事をしていたその時でした。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」
脱衣所から、夫の叫び声が響いてきました。
尋常ではない夫の声……
その悲痛な叫び声に、私は今までの怒りも忘れ、急いで脱衣所へと駆けつけました。
そこで……
私が見たものは……!
……いや、何やってるの?
聞けば、先ほど取り込んだ下着の中に、甲虫が紛れ込んでいた模様。(多分、カメムシ…)
それに気付かずに下着を履いた夫は、『大事なところ』を挟まれ (しがみ付かれ) てしまったのだそう。
ちょっと、『ザマァ!!』と思ってしまった私は悪い女でしょうか?
ということで、『洗濯バサミの呪い』のお話でした〜。
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