第42話 ユニークスキル【共鳴】

 冒険者ギルドに入った後、俺はいったん目立たない位置に移動し、イネス一人で受付に向かわせた。


 ……昨日のゴロツキたちの反応的に、どうやら俺の存在は、悪い意味で噂になっているみたいだからな。

 レベル40台で登録したわけだから、そうなるのも仕方ないと割り切っていたが、同行人がいる状況では話が別だ。

 俺だけでなく、イネスにも疑いの目が向けられると面倒なことになる。


 そんなことを考えていると、すぐにイネスの番がやってきた。


 緊張した様子で立ちつくすイネス。

 そんな彼女に対し、受付嬢(数日前、俺に応対したのと同じ人だ)が柔らかい笑みを浮かべて語りかける。


「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」

「えっと、冒険者登録がしたくて……」

「冒険者登録、ですか?」


 少しだけ怪訝そうな顔を浮かべる受付嬢。

 その理由は察しがつく。

 ここは最前線の迷宮都市。たった数日のうちに、まさか2人目の新規登録者が現れるとは思っていなかったのだろう。


 とはいえ、だ。

 一応こういった状況への対応も、事前に話し合っていた。

 彼女は身分を隠すためのフードを深く被ったまま、ゆっくりと口を開く。


「これまでも冒険者活動自体はしていたんですが、他の国にいて……この国で使用できる証明書がなくて、改めて登録したいんです」

「ああ、そういうことでしたか。それでしたら問題ありません」


 納得したように頷いたあと、受付嬢はテーブルの下からマジックアイテム――能力測定器を取り出した。

 そして俺の時と同様、ここでは登録時にレベルを測る決まりがあるとイネスに説明する。


「問題ないようなら、こちらに手を置いてください」

「わ、わかりました」


 ゆっくりと深呼吸するイネス。

 そんな彼女に、複数の冒険者が視線を向けていた。

 新規登録者は珍しいため、どれほどの実力者か気になっているのだろう。

 レベルが高ければパーティー勧誘を、低ければ嘲笑うといったところか。


 一応、周囲を見渡してみたところ、以前俺に絡んできた男はいない。

 さすがにあの時のような面倒ごとにはならないだろう。


 そんなことを考えていると、とうとうイネスが測定機に手を置く。

 直後、マジックアイテムは淡い光を放った。

 ……とはいえ、俺の時よりは大分控えめな明るさだが。


 そして光が収まった時、マジックアイテムの上には『レベル:456』という数字が浮かんでいた。

 実をいうと、俺もイネスのレベルを知るのはこれが初めてなわけだが……おおよそ想像通りの数値だった。


「……昨日、レベル400のウィング・ウルフ相手に圧倒していたわけだしな」


 彼女の年齢から考えればかなりの高レベルだが、この都市では決して珍しくない。

 その証拠に、先ほどまでイネスに注目していた冒険者たちも、次第に興味を失ったようで自分たちの会話に戻っていった。


 最後に、レベルを確認した受付嬢がコクリと頷く。


「このレベルでしたら、周辺のダンジョンも問題なく探索できるでしょう。それではカードを作成してきますので、少々お待ちください」


 最後にイネスの名前を聞いた後、受付嬢はカードを作りに行く。


 数分後、イネスはギルドカードを受け取ると、俺に駆け寄ってきた。


「無事に登録できたよ!」


 そう言って見せる、安堵の表情。

 俺は無言で頷き、下手に注目を集める前にギルドの外へと歩き出した。


 これで事前準備は終わった。

 あとはダンジョンで、直接イネスを鍛えるとしよう。


「それじゃ、行くぞ」

「うん!」


 こうして俺は、イネスを連れダンジョンへと向かうのだった。



 ◇◆◇



 冒険者ギルドを出てから、約1時間後。

 俺とイネスがやってきたのは、未踏破のSランクダンジョン【かみ土塊つちくれ】。

 昨日、男が召喚したレベル2500のダンジョンボスが存在する迷宮だ。


 そのことを知ったイネスは、少しだけ緊張した面持ちを浮かべていた。


「こ、ここってまだ誰も攻略できてないSランクダンジョンなんだよね? わたしなんかが挑戦して大丈夫なのかな?」

「浅層なら出てくる魔物のレベルも低い。特に問題ないはずだ」


 それに、最も強力なダンジョンボスですら、俺の相手にならないのは証明済みだ。

 多少のイレギュラーがあったとしても、イネス一人を守るのは簡単だろう。


 そんなことよりも、まず初めに確認しておかなければならないことがある。

 近くにモンスターがいないのを確認した後、俺はイネスに視線を向けた。


「これからイネスのレベル上げに協力するわけだが、その前にお前の戦い方を確かめておきたい」

「わたしの戦い方?」

「ああ。武器はその2つ……弓と短剣でいいのか?」


 背中には弓を、腰に短剣を装備しているイネスを見ながらそう尋ねる。

 すると彼女はコクリと頷いた。


「うん、そうだよ。接近戦の得意な相手には距離を取って弓で、逆の相手には短剣で仕掛けるって感じかな」

「……そういえば、昨日ウィング・ウルフと戦っている時もそんな感じだったか」

「そ、そこから見られてたんだ!? あはは、何だか少し恥ずかしいな……」


 頬をかきながら、顔を赤らめるイネス。

 そんな彼女に、俺は本題ともいうべき質問を投げかける。


「それじゃ、追加でもう1つ……ウィング・ウルフの攻撃に対し、イネスの反応がやけに早かった時があったが……あれは、お前のスキルによるものか?」

「っ」


 “スキル”という単語が出た瞬間、イネスの肩がピクリと動き、顔を強張らせた。

 彼女にとって、踏み込まれたくない領域だったのかもしれない。


 ……その気持ち自体は理解できる。

 俺も、スキルについて訊かれたら、少し返答を考えるだろうから。


「……教えたくないのなら、別にいい。それはそれでやりようはあるからな」


 質問を取り下げようとするも、イネスはすぐに首を横に振った。


「ううん、大丈夫! ……むしろ、シモンには知っていてほしいかな」


 そう言いながら、イネスは自分のステータスウィンドウを表示する。

 本人が望む場合、ステータスの情報は他者と共有できるのだ。

 彼女は一つ深呼吸した後、俺にスキル欄を見せてくる。


 そこには、こう書かれていた。



 ――――――――――――――


 【共鳴きょうめい

 ・ユニークスキル

 ・対象との共鳴を行い、思考や感情を読み取ることができる。


 ――――――――――――――



「ユニークスキル【共鳴】――これが、わたしだけが持つスキルだよ」



 イネスは力強い口調で、そう告げるのだった。

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