第41話 今後の予定

 Aランクダンジョン【天獣てんじゅう住処すみか】にて出会ったハーフエルフの少女、イネス。

 これからしばらくの間、行動を共にすることになった彼女を連れて、まずは滞在している宿へと向かう。

 その間もイネスは身元がバレぬよう、フード付きのローブで耳を隠し続けていた。


 宿に到着すると、看板娘である12歳前後の女の子――確か宿主からはミアと呼ばれていた――が、俺たちを出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、お客様。あれ、お連れの方は……?」

「こいつも泊まりたいらしい。空いている部屋はあるか?」


 さすがに同室というわけにはいかない。

 ミアは手元の紙を見ながら、宿泊状況を確認する。


「空いている部屋ですか? えーっと、あっ、一つだけあります! お客様の隣の部屋になるんですが……」


 隣、か。

 イネスを守るという意味でも、そこに泊まってもらうのがベストだろう。


 イネスに視線を向けると、彼女は同意するようにこくりと頷いた。

 彼女も同じことを考えていたらしい。


「……じゃあ、それで頼む」


 俺の返事に、ミアは小さく会釈をする。


「かしこまりました。それじゃ、ご案内いたしますね!」


 意気揚々と、部屋へと案内してくれるミア。

 俺が借りている隣の部屋なのだから、鍵だけ渡してくれればとも思うのだが、わざわざ呼び止めるのも面倒だ。


「こちらになります! それでは、どうぞごゆっくりお過ごしください!」

「うん、ありがと」


 案内を終えたミアに対し、イネスは柔らかい笑みを浮かべながら感謝を告げるのだった。




 その後、宿主が振舞ってくれた夕食を片付けた後。

 俺の部屋で、イネスと今後の予定について話し合うことにした。


 議題は幾つかあるが……まずはこれか。


「イネス、お前は冒険者カードを持っているのか?」


 この町で過ごすには、ダンジョンを攻略して資源を売却するのが最も効率的だ。

 そして売却には、冒険者カードという身分証明書があった方がいい。


 そう思っての問いだったが、イネスは首を横に振った。



「ううん、持ってないよ。やっぱり実力者が集まる所には、なかなか顔を出しにくくて……」

「なら、これまではどうやって生活していたんだ? 冒険者じゃなければ、魔物の素材を一つ売るだけでも一苦労だろう」

「一応、それでも買い取ってくれる人はいたりしたから……まあ、合法かどうだったかは分からないし、相場よりも低かったりはしたんだけどね……」



 まとめると、闇市のようなところを利用していたのだろう。

 俺もトレードヘブンでは、盗賊から奪った金品を売るのに利用した。

 それなら確かに、身分証がなくても生活できる。


 もっとも今のイネスの言い方的に、ある程度は足元を見られていたみたいだが。

 それならやっぱり――



「冒険者カードは持っておいた方が色々と融通が利く。明日はまず、お前の冒険者登録からだな」

「……言いたいことは分かるけど、本当に大丈夫なのかな? もし、わたしがハーフエルフだってことがバレたら……」

「そこは心配するな。さっきも言った通り、お前はれっきとした差別禁止の対象だ。人目のあるところで、分かりやすい襲撃はないだろう」



 そう言ったものの、イネスの表情からは不安が消えない。

 だが俺には、それ以上フォローする言葉も見当たらなかった。


「……万が一のことがあっても、俺がいる。最悪の事態にだけはならないはずだ」


 せめてこれが、精一杯の配慮だ。

 彼女の安全を力強く保証するような言葉でもない。


 しかし、そんな俺の言葉に対し、イネスは安堵したような笑みを浮かべた。


「うん、そうだね。なら、シモンを信じるよ」


 随分と信頼されているようだと思いつつ、こうして明日の予定が決まるのだった。



 ◇◆◇



 そして翌日。

 俺とイネスは予定通り、冒険者ギルドにやってきていた。

 イネスは当然、フードを被りハーフエルフであることを隠している。


 昨日、宿屋での会話にて。


『昨日の奴ら以外に、この国に来てから顔を見られてはないんだよな?』

『うん。だから耳さえ見られなければ、バレないと思うよ』


 とのことだったので、よっぽどのことがない限り面倒ごとにはならないだろう。

 そう思いながら、俺たちはギルドの中に足を踏み入れるのだった。

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