第38話 繋門召喚石
1人を殺し、残りは4人。
さっさと片付けるべく足を踏み出そうとしたその時、ようやく男たちは我に返ったようだった。
リーダーらしき男が叫ぶ。
「テ、テメェ、いったい何をしやがった……!? ソイツは500レベル越えのAランク冒険者だぞ!? テメェみたいな雑魚に倒せる相手じゃないはずだ!」
「……そうか、これでAランクなのか」
既に息絶えた男を見て、俺はふとセドリックの死に際を思い出した。
あの時、アイツも同じように上半身だけになっていたが、持ち前の魔力操作技術でしばらく意識を保っていた。
当時、セドリックのレベルは400程度だったはずだが……仮にも賢者と呼ばれるにふさわしい才能があったということだろう。
とまあ、そんな話はさておき。
さっさと掃除に戻らせてもらおう。
「――いくぞ」
小さくそう宣言すると、リーダーらしき男は慌てた様子で叫ぶ。
「くそっ、舐めやがって……お前ら、構えろ! 何が起きてるか考えるのはあとだ! 今はとりあえずソイツを殺すことだけに集中しろ」
「「「お、おう!」」」
混乱状態から戻ってきた彼らは、一斉に陣形を整えた。
前衛には剣士とタンクが1枚ずつで、後衛には魔法使いが1枚。
リーダーらしき男は最後尾で指示に徹していた(剣を持っていることから、恐らく剣士だと思われる)。
まず初めに、前衛2枚が勢いよく突っ込んでくる。
その表情には怒りが浮かび上がっていた。
「よくも仲間を殺しやがって!」
「お前だけは許さねぇ! 死にやがれ!」
高速の斬撃の、大盾による突進。
彼らもレベルは500(Aランク)を超えているのだろう。
アルトやガレンに比べ、その速度と勢いは確かに優っているが……
今の俺からすれば、特に大差はない。
「――遅い」
「なっ!?」
「ぐわぁぁぁ!」
2人の攻撃を潜り抜け、すれ違い気味に神速の剣閃を放つ。
コイツ等ごときが抵抗できるはずもなく、一瞬で十数の破片となりその場に崩れ落ちていった。
「これで、残りは2人だ」
ヒュッ、と。
前方から息を呑む音が聞こえた。
まさかここまで力量差があるとは思っていなかったのだろう。
3人もの仲間が一瞬で殺された現実に対し、魔法使いとリーダーらしき男は、信じられないとばかりに絶望の表情を浮かべている。
そんな中でも詠唱を止めなかったのは、さすがのAランクと称賛するべきか。
魔法使いが、前方に青色の魔法陣を展開して力強く叫んだ。
「貫け――
莫大な魔力が込められた巨大な氷槍。
Aランク魔物はおろか、Sランク魔物にすらダメージを与えられるほどのエネルギーが含まれていた。
劣勢を理解し、咄嗟に全魔力を注ぎ込んだ一撃なのだろう。
しかし、
「柔すぎる」
それだけで氷槍は砕け散り、数十の氷片となって辺りに散らばった。
「そんな! 俺が使える最大火力の魔法だぞ!? それがこんな簡単になんて――」
それ以上、魔法使いは言葉を紡げなかった。
俺の攻撃によって、その体が数個の破片に切り刻まれたからだ。
「なんて、強さ……」
背後では、イネスが戸惑いと高揚の入り混じったような声を漏らしていた。
「あと、1人」
そんな中、俺は最後の一人――リーダーらしき男に視線を向けるのだった。
◇◆◇
十数秒前。
リーダーらしき男――ゲイルは、目を前に広がる無残な光景を、信じられないような気分で眺めていた。
ゲイルたちの元々の目的は、エルフの少女を確保すること。
それを阻む冒険者が現れた時は厄介だと考えたが、その正体はここ数日噂になっている、たったレベル40でギルドに登録した非常識な新人だった。
余計な正義感を発揮しなければ、無事に生きて帰れただろうに。
間抜けな新人を嘲笑いながら、ゲイルはメンバーに少年を排除するよう命じた。
両者のレベル差を考えれば、10秒とかからずこちらの勝利に終わるはず。
――そう確信していたゲイルにとって、
(おい、どうなっている!? アイツはレベル40の雑魚じゃなかったのか!? 俺たちは全員がAランク冒険者。それがまるで、赤子の手を捻るように呆気なくやられるなんて……!)
戸惑うゲイルの前で、とうとう魔法使いまで少年の手が及ぶ。
力量差は既に明白だ。
恐らく少年は、レベルに換算して1000――Sランクに近い力を持っている。
なぜギルドの登録時に数字が反映されなかったのかは分からないが、この残酷な光景が何よりの証拠。
レベル700しかない自分の実力では、どう足掻いても敵う相手ではない。
(このままだと勝ち目は0。だからといって、何もせずにやられるのだけは御免だ! っ、そうだ! フールさんから譲ってもらった、
ゲイルは懐から、透明の水晶を一つ取り出す。
これは【
ゲートを生み出し、周辺の一定範囲内から強力な魔物を呼び出せるマジックアイテムだ。
(呼び出せる魔物はランダムで決まるが、ここは迷宮都市。Sランク魔物が現れる可能性は十分にある)
「あと、一人」
ゲイルは自分を睨む少年に対し、歪な笑みを向けた。
(仮に俺が死ぬ未来は変えられなかったとしても――テメェだけは絶対に、ここで道連れにしてやる!)
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