第11話 謎の声

 ダンジョンの最奥で、自死とボス討伐を繰り返すこと数年。

 ここにきて初めてとなる想定外の出来事に遭遇した俺は、思わず眉を潜めた。


「ダンジョンエラーが、発生しました……?」


 それが何を指しているのか分からず困惑していると、突如して警告音が収まる。

 そして、まるでその代わりかのように――



『――エラーの修復が完了しました』


『60分後、ダンジョン【黒きアビス】は完全に消滅します』



 続けて、そんなシステム音が響き渡った。

 ダンジョンエラーとは異なり、この現象に関しては俺に心当たりがあった。


「ダンジョンの消滅か。そっちなら聞いたことがあるぞ」


 世界中に点在する、様々なダンジョン。

 それらに共通している現象が、発生から一定期間が経過した後、突如として消滅するというもの。

 発生から消滅までにかかる期間はかなり幅があるが、人気なダンジョンほどそのペースは速いと言われている。


 高名な学者いわく、どうやらダンジョンごとに攻略報酬の限界回数が決まっており、そこに達したものから消滅していくのではないか――そう推測されていた。


 もっとも、ダンジョンのほとんどは消滅まで10年以上の期間を要する。

 早いものでも、まず5年はかかるのが常識だ。

 その点、この【黒きアビス】は発生からまだ2年しか経っていないわけだが……


 その理由は、考えるまでもなかった。


「俺が無限再生を使って、それこそ無限に報酬を獲得してたからな。そのせいで消滅までのペースが格段に早まったんだろう」


 まあ、ダンジョンに仕組みはどうでもいい。

 いま大切なのは、これ以上このダンジョンには留まれないという事実のみ。

 ダンジョンが消滅した際、内部にいる人間も一緒に消滅してしまうのだが、その後どうなるかは誰も知らない。


「……どうやら、ここから出る時が来たみたいだな」


 俺が小さくそう呟きながら、現在のステータスを確認しようとした――その時。




『――――裁き――要』




 ――突然、どこかからそんな声が聞こえた気がした。

 まるで妨害魔法ジャミングでもかけられているかのように、不明瞭な声。


「なんだ?」


 疑問に首を傾げる俺に応じるように、は続く。



『想定外』『有り得ぬ事態が起きた』『このようなことは許されない』『ただ一人で寵愛を独占するとは』『汝は咎人』『罪を背負うべき存在』『許せない』『世界への冒涜』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない――――




 ――――必要』




『――――神の裁きが、必要である』




 そこまでを言い切ったかと思えば、音声はブツリと途切れる。


「何だったんだ、いったい……?」


 一から十まで意味の分からない現象だった。

 音の響きはシステム音に酷似していたが、それに比べたら幾分か感情があるように思えた。

 そして……語っていた内容について、一部だが理解できた部分はある。


「ただ一人で、寵愛を独占……か」


 恐らくこれは、俺が一人で攻略報酬を独占したことを指しているのだろう。

 通常、ダンジョンの報酬は一人につき一度しか獲得できない。

 どうしてそんな仕組みになっているかまでは知らないが、仕組みがある以上そこには意味があるはず。


 それを俺は無限再生により、ほとんどシステムのバグを利用するような形で獲得し続けた。

 どうやらそれが、には大層不満だったらしい。


 俺は「はあ」とため息を吐きながら、右手で自分の後頭部をかく。


「まあ、俺からしたら知ったことじゃないが……それはそれとして、この現象に出くわしたこと自体はかなり貴重だったかもな」


 まさかダンジョン内で何者かから語りかけられるなど、これまで考えたこともなかった。

 奇しくも、俺はダンジョンの深奥に一つ触れてしまったみたいだ。


 それに謎の声が言っていた『神の裁きが必要』という文言。

 その神というが指し示しているのは、果たして俺が知っている創世神話の――――


「いや、その辺りは後で考えよう。それより早くダンジョンの外に出なくちゃな」


 システム音を信じるなら、60分以内にダンジョンが消滅するとのこと。

 現時点で既に5分近く経過している。


 俺はここで改めて、自身のステータスを確認した。



 ――――――――――――――


 シン 17歳 レベル:44

 称号:なし

 HP:440/440 MP:130/130

 攻撃力:14050

 防御力:13980

 知 力:6630

 敏捷性:13970

 幸 運:6620

 SP:51330


 ユニークスキル:【無限再生】

 エクストラスキル:【自傷の契約】・【痛縛の強制】・【毒質反転】・【飢餓の忘心】

 通常スキル:【毒耐性】・【睡眠強化】・【武具生成】


 ――――――――――――――



 思い返してみると、こうして自分のステータスを見るのは久々だった。

 その証拠に、まだ割り振っていないSPステータス・ポイントが50000以上も溜まっている。

 これだけで5000レベルの冒険者に匹敵すると考えれば、なかなか壮観だ。


「……まあ、適当でいいか」


 俺は10000になるまで知力と幸運を上げた後、残りのSPを他の3つに振り分ける。

 気持ち、攻撃力だけ多めで。

 その結果、攻撃力のパラメータは30000を超えることとなった。


「よし、いくか」


 準備を終えた俺は、かつてトラウマを与えられたに向かうのだった。



――――――――――――――――――――――


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