第二十八話「精霊の森」

「精霊って、ファンタジーに出て来る、あの精霊だよな」


 カエデは、島の東部を目指して、歩き続けている。


「精霊は、古くから木などの自然物から、刀などの人工物に宿ると言われている」


 隣を見ると、アカネがカエデの後に続くように、ついてきている。


「アカネ。ついてきて、大丈夫なのか?」


 昨日、ばぁ様との別れる前に、『精霊がいると、何で取りにいけない?』と聞いたら、ばぁ様から『妖怪は、精霊に嫌われているからね。会いに行っても、姿を現してくれないのさ』って言っていた。妖怪であるアカネは、大丈夫なのだろうか?


「大丈夫。精霊の近くに来たら、遠くで待機するようにするから」


「そうか」


 人で、街灯もない道を歩き続けるのも寂しい。ついて来てくれる分には、ありがたい。


「アカネは、精霊を見たことあるのか?」


 アカネは、しばらく沈黙すると、頷いた。


「昔、興味本位で精霊がいる森に行ったことがある。精霊は、他の妖怪から木霊とも呼ばれていた。名前の通りで、木の穴に住んでいたり、森の中を駆けまわっていた。途中で、私に気づいて隠れちゃったけど」


 臆病な精霊なのだろうか。


「なんで、木霊は妖怪を警戒しているんだろうな?」


「わからない。私が、物心ついた時から、木霊は妖怪を警戒していたって聞いている」


 アカネでも、わからないのか。


「まぁ、とりあえず木霊のとこまで行こう。そろそろ着くはずだ」


 カエデとアカネは、木霊が住んでいると言われている森まで歩き続けた。


 しばらく進むと、草原の奥に森らしき物が見えて来た。


「あれが、精霊の住む森なのか?」


 月明かりしか、遠くを照らす物がなく、はっきりとは見えない。


「うん。あれが、精霊の住む森」


 アカネの方を見てみると、アカネの目が猫の瞳と同じ形になっていた。


 猫って、暗闇でも目が良いって聞いたことがある。アカネには、奥にある森がはっきりと見えるんだろう。


「私は、ここから見ていた方が良いと思う」


「そうだな。ここからは、俺が一人で行くことにするよ」


 カエデは、森に向かおうと進みだす。


「カエデ」


「どうした?」


「もし、何かあったら携帯のライトで、こっちに向かって照らして、すぐに助けに行く」


「わかった。その時は、助けを求めるよ」


 ばぁ様からは、危害を加える精霊ではないと言われているが、気をつけるには越したことはないだろう。


「行って来る」


 カエデは、精霊の森に向かって進んだ。





「おじゃましまーす」


 カエデは、精霊が住むと言われている森の中に入り、声をかけてみる。


 返事がないな。警戒しているのか?


 カエデは、森の中を進んで行く。


「ん? あれは……」


 森の中を進んで行くと、一本の木の下に木彫りの人形が置かれていた。


 こんな奥地に人が住んでいるのか?


「持ち主の名前が書いてあるか、調べてみるか」


 カエデは、木彫りの人形を手に取り、何かないか探ってみる。


「お主、人間だな」


「人形が喋った!?」


 木彫りの人形から、突然声が聞こえて、カエデは慌てて人形を地面に落とした。


「私が、作った人形を雑に扱うな」


「私が作った人形?」


 確かに、声は人形から聞こえた。どういうことだ?


「たく、だから人間は嫌いなのだ。私利私欲で、行動する生き物」


 木彫りの人形が光出し、宙に浮いた。


「君は、精霊なのかい?」


「そうとも、数々の神話で語り継がれ、数多くの伝承が残されている精霊さ」


 人形から放たれている光が、玉になって、人形と分離した。


「小人?」


 光の中から、葉っぱで作られた衣装を着ている、手の平サイズの人間が現れた。


「小人? そんな欧州に住む奴らと同じにしないでくれ、俺達は遥か昔から、この島に住んでいる木霊だ」


「俺達?」


 周りを見渡してみると、小人サイズの木霊が、数多く、カエデを囲むように出現していた。


「それで、人間。わざわざ、ここまで来たってことは、何かようなのか?」


「勾玉を探しに来たんだ」


「勾玉?」


 木霊達が、ざわめき始める。


「誰から頼まれた?」


「えぇっと、ばぁ様から」


「ばぁ様!?」


「ばぁ様ってあいつか!?」


 木霊達は、ばぁ様って言葉を聞いた瞬間、ざわめき姿を消して行く。


「人間。俺等は、森を荒らすやつ以外は危害を加えないって事にしている。しかし、裏切り者による手の者なら、容赦はしない」


「裏切り者? ちょっと待て、話しの内容が見えない!」


「ばぁ様、いや、卑弥呼の名を出した者には罰を!」


 カエデと話していた木霊が、そう呟くと、姿を消した。


「ばぁ様の正体が、卑弥呼だって知っている一体どういう、うわぁ!?」


 カエデは、自分の足を見てみると、つるがカエデの足に絡みついていた。


「悪には、罰を!」


 木霊の声が辺りに鳴り響くと、カエデは森の奥に、つるで引きずられて行った。

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