第二十七話「ばぁ様から依頼」
カエデが、コテツとアカネ、合わせて三人とアイスを食べた次の日。カエデは、ばぁ様がいる妖亭に訪れていた。
「くぁ、くぁ、くぁ。あの生意気坊主が、自分の抜けた角を差し出すって言ってくれたかい」
ばぁ様は、カエデから『龍の角を貰う約束をしてきた』という報告を聞き、大きく笑った。
「これで、豊穣祭に必要な三種の神器の内、二つは手に入れることができました」
「順調だねぇ。豊穣祭まで、残り二週間。良いペースじゃないかい?」
「後は、卑弥呼の鏡だけです」
言うても、卑弥呼の鏡は、ばぁ様が持っているから、探す手間がない。ばぁ様から、卑弥呼の鏡を借りるだけだ。
「くぁ、くぁ、くぁ。かつて、日本が倭の国と呼ばれていた頃、最大勢力を誇っていた邪馬台国の女王である私が、ただで大事な鏡を渡すかと思うかい?」
今までの経験上、ばぁ様が、ただで卑弥呼の鏡を貸さないのは、なんとなく予想していた。
「ばぁ様も何か、依頼があるのですか?」
「私が探して欲しいのは、これだよ」
ばぁ様は、隣に置いてある黒いカバンから、一枚の紙を取り出して、カエデに見せた。
「これは……船?」
紙を見てみると、筆で描かれた大きな船があった。
「この船は、私が、かつて人間だった頃に、仲間を引き連れて霧島に向かった時、乗っていた船だよ。くぁ、くぁ、くぁ」
「ばぁ様が、人間だった時の船……二千年近く前の船!?」
約二千年前の船を探せって言うのか? 仮に、海の中に存在していたとしても、朽ちて無くなっているぞ。
「くぁ、くぁ、くぁ。そう驚くな。船は恐らく存在していないねぇ。私が、ここに辿り着いた時、台風が発生したのだよ。船は座礁。かろうじて、この島に辿り着いたものも。次の日に、様子を見に行くと、座礁した所から、いなくなっていたからね。海に沈んだだろうねぇ」
ばぁ様は、描かれた船を指す。
「欲しいのは、船の中身だよ」
「船の中身……もしかして、大事な荷物も積んでいたのですか?」
「その船の中には、邪馬台国の女王として、私が集めさせた宝を積んでいたのさ。探して欲しいのは、その宝の一つさね」
「宝の一つ?」
船に積んでいた宝を全部探せという訳じゃないのか。
「その宝の名前は、『やさかにの勾玉』って言うんだ。覚えておきな」
「やさかにの勾玉……どこかで聞いた事があるような」
「日本の天皇が持っている、三種の神器の一つが、やさかにの勾玉さね」
「それだ、天皇が持っている三種の神器の一つに、やさかにの勾玉がある。どこかで、聞いた覚えがあると思っていたんだ。あれ? でも、何でやさかにの勾玉が、霧島にも?」
ばぁ様は、カエデの疑問の声に笑みを浮かべた。
「くぁ、くぁ、くぁ。良いとこに気づいたね。やさかにの勾玉は、私が皇族に奪われないように、持ち帰ったものさ。天皇が、持っていると言っている、やさかにの勾玉は偽物だねぇ」
「なるほど、天皇が持っている、やさかにの勾玉は偽物なんだ……え?」
待ってくれ、俺は今重要な発言を聞いてはいないか?
「日本の天皇が持っている、やさかにの勾玉は偽物なのか?」
「くぁ、くぁ、くぁ。やさかにの勾玉は、邪馬台国を討ち滅ぼした証として、存在していたのさね。時代が流れると、三種の神器の一つとして数えられるようになったのさ」
「それって、本当なのか?」
「私が嘘をついてどうするのさ。私も、自分が身に付けていた、やさかにの勾玉が、こんなに有名になるとは、思わなかったけどね。くぁ、くぁ、くぁ」
ばぁ様は、人間だった頃は卑弥呼だったらしい。ばぁ様が卑弥呼だと信じるなら、天皇が持っているのは偽物ってことになる。
「信じられないな」
この島に来てから、常識が覆されているばっかりだ。
「歴史を語る人は、その時その時の勝者によって語られるのさ。勝者にとっては不都合な真実も、改変されて、時が経つと事実になる。くぁ、くぁ、くぁ」
ばぁ様は、懐から煙管を出し、葉を詰めて一服する。
「深いですね」
「管理人も身に覚えがあるはずだよぉ? 自分の都合悪いことは、部下に責任を押し付けて、美味しい所は天狗のように『俺のプロジェクトの成功の秘訣は』って語る自分語りをする人をさね」
カエデは、過去に自分が上司から受けたトラウマを思い出した。
「確かにあります」
「それが、社長になれば、自伝として本を出し、権力者になれば歴史に残そうとする。昔から変わらないのさ、人間と言う者は。成功するには、自分一人では無理なのにねぇ。成功の裏には、支えている人が、考えているより数十倍いや、数百倍いるのさ」
ばぁ様の表情は、どこか悲しげだった。
これが、二千年生きて来た元人間の見方なのか。
「自分も、そうならないように気を付けます」
「良い心がけだねぇ。くぁ、くぁ、くぁ」
ばぁ様は、大きく笑った。
「ばぁ様の依頼は、やさかにの勾玉なんですよね。一体どこにあるんですか?」
海の中って言ったら、さすがに探し出せないぞ。
「やさかにの勾玉は、恐らく島の東部にある森。私の勘が、そう告げているねぇ。なんで、船の中にあった物が、島の東部にあるかは、わからないけど。くぁ、くぁ、くぁ」
「わかりました。そういえば、なんで、ばぁ様が自ら取りにいかないのですか?」
「島の東部にある森には、あいつらがいるからねぇ」
「あいつら?」
敵対的な妖怪が住んでいるのだろうか?
「妖怪よりも、はるか昔に存在している精霊ってやつだよ。くぁ、くぁ、くぁ」
ばぁ様は、笑みを浮かべた。
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