第二十六話「手作りは、特別な味」

 コテツは、黒い器に入っているアイスクリームを、物珍しそうに眺めている。


「初めて見た感想は?」


 自分が予想していたより、コテツが良いリアクションしている。自分で口角が上がっているのがわかる。


「まるで、雪原を見ているみたいだ。触っても良い?」


 カエデは、コテツのお願いに頷く。


「よし、触るぞ」


 コテツは、恐る恐るアイスクリームに向かって、手を伸ばす。


「冷たい!」


「ふふ」


 コテツの行動を見守っていたアカネは、笑いが堪えなかったのか、コテツの反応を見て、笑い声を漏らしてしまった。


「さっそく、食べてみるか?」


「うん!」


 カエデは、大きめなスプーンを取り出して、アイスクリームを削り取った。コテツの皿に、そのアイスクリームを移す。


「コテツの分だ」


「やったー!」


 コテツは、嬉しそうにしながら受け取った。


 カエデは、アカネの分と自分の分に、アイスクリームを分ける。


「これで、みんなの分だ」


 ココテツは、目を輝かしながらアイスクリームを見ている。アカネの方を見てみると、スプーンで、アイスクリームをつついているのに気づいた。


「アカネ」


「なに?」


「もしかして、アカネもアイスクリームを食べるのが、初めてなのか?」


 アカネは、カエデの言葉に体を震わせた。


 図星みたいだ。


「……」


 アカネは、顔を赤くして、カエデのことを見ている。


 恥ずかしいのか? 怒っているのか? どちらにしても、聞いたら怒られそうだ。


「ま、まぁ。アイスを食べるか」


 カエデは、軽く咳払いしながら言った。


「いただきます」


 カエデは、手を合わせてお辞儀する。


 アカネとコテツも、カエデに続いて、手を合わせ、お辞儀した。


「いただきます」


 カエデ達は、スプーンでアイスを取り、口の中に運んだ。


 なんて濃厚なバニラだ。手作りで、バニラの味がここまで再現できるとは思わなかった。


「あれ? アカネとコテツ?」


 アイスから視点を移すと、アカネとコテツは、スプーンを咥えたまま動かなくなっていた。


「う」


「う?」


 カエデは、コテツが呟いた一言に首を傾げる。


「美味い!」


 コテツは、目を開いた。


「これが、アイス」


 アカネは、一言呟くと、黙々とアイスを食べ始める。


「カエデ! これが、アイスなのか!?」


「あぁ、これがアイスって……今、俺の名前を呼んだか?」


 今まで、ずっと『管理人さん』って呼んでいたのに、カエデと呼び捨てしてきた。


「おかわりしても、いいか! カエデ!」


 コテツは、カエデの疑問を無視して、空になった皿をカエデに見せた。


「あぁ、食べてもいいぞ。好きなだけ、食べてくれ」


 コテツは、カエデの返事を聞いてから、アイスクリームを自分の器に移した。


 一リットル分のアイスクリームだ。一晩食べ続ける量は、あるだろう。


 カエデは、コテツが美味しそうに、アイスクリームを食べている様子を眺めていた。


「ねぇ、カエデ」


「どうした? アカネ?」


 カエデが、アカネの方を見ると、アカネは空になった皿を見せる。


「私も、おかわりしていい?」


「あ、あぁ。いいぞ」


 アカネもアイスクリームに、はまったらしい。コテツのために、作り始めたアイスクリームだったが、アカネも、喜んで良かった。


「俺も、アイスクリームを、おかわりしようかな」


 カエデは、自分の皿に残ったアイスクリームを食べきると、黒い器に入っているアイスクリームを自分の皿に移した。


「なぁ、カエデ」


「どうした、コテツ?」


「アイスクリームって、他にも食べ方があるのか?」


 コテツは、自分のアイスを見ている。


 どうやら、もっと美味しい食べ方を知りたいみたいだな。コテツの性格なら、そういうと思っていた。


「実はな。今日の昼間に買い物に行って、味替えも用意している」


 カエデは、キッチンに行き、ビニール袋を持って、居間に戻ってきた。


「これは?」


 コテツは、不思議そうな顔で、ビニール袋を眺めている。


「アイスを、より美味しくする、三つのアイテムだ」


 カエデは、袋からシリアルとチョコレートジャム、ブルーベリージャムを取り出した。


「これを加えると、美味しくなるのか?」


「あぁ、どれも味を格段に美味しくさせる物だ」


 本当は、チョコレートソースがあれば一番だったけど、コンビニには置いていなかった。パンに塗るチョコレートジャムで、代用だ。


「どれにしよう」


 コテツは、カエデが袋から出した、三つのアイテムを眺めている。


「まずは、これを食べてみたらどうだ?」


 カエデは、シリアルを手に取り、コテツとアカネのアイスが入っている皿に入れた。


「い、いただきます」


 コテツは、緊張気味な表情で、シリアルが混ざったアイスを口の中に運んだ。


「おいしい!」


 コテツの表情が、笑顔に変わる。


「さくさくして、おいしい」


 アカネも、嬉しそうな表情で食べている。


 その後も、カエデとコテツ、アカネの三人は、チョコレートジャムや、ブルーベリージャムを加えるなどして、楽しみながらアイスを食べた。

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