第二十五話「手作りはアイスクリーム」
「これで、煮詰める作業は終わりだ」
カエデは、牛乳の量が半分になったのを確認して、コンロの火を消した。
「終わったー!」
コテツは、畳の上に転がりこんだ。
「カエデ。これで、終わりじゃないんでしょ?」
「次は、煮詰めた牛乳を、こしながら器に入れる。キッチンから持ってくるから、休んでて」
カエデは、キッチンに行き黒い器と、味噌汁を作る時に味噌をこす、こし器を持って来た。
本当は、お菓子作りとかに使う、こし器を使いたかったんだけどな。そんなのは、持ち合わせていなかったし、村中を探してもなかった。
「このこし器に、牛乳と牛乳の膜を別れさせながら、黒い器に移す。アカネ、鍋をゆっくり傾けることはできるか?」
「任せて」
アカネは、慎重に鍋を傾けて、カエデの持っているこし器を通した。こされた牛乳が、黒い器に入っていく。
「あんなに、かき混ぜていたのに、膜はできちゃうんだね」
コテツは、カエデの持っている、こし器に残った膜を見て、悲しそうな表情をした。
「膜は、いくら丁寧にかき混ぜても、できてしまう。これぐらいの膜しかできていないのは、すごいと思うぞ」
牛乳一本分の量があったんだ。あれだけの量で、味噌こし器の網目が埋まらなかったのは、アカネとコテツの頑張りが、あったからだと思う。
「カエデ。これで、どうするの?」
「次は、この器を急速に冷やせば良い。ゆっくり冷えると膜が、できてしまうんだ」
カエデは、黒い器を持って、キッチンに向かおうとした。
「待って! 冷やすのは、僕の力を使ってやりたい!」
キッチンに行こうとしたカエデを、コテツが引き留めた。
「自分で冷やす?」
カエデが振り向くと、コテツの周りに水の玉がいくつも浮かんでいた。
「僕が、誰か忘れちゃったの?」
コテツは、片方の人差し指を上に向けて、頭と同じ位の大きさである水の玉を作る。
「僕は、水龍の両親を持つ、立派な龍だよ管理人さん。机の上に、牛乳が入っている容器を置いて」
カエデは、コテツの言う通り、牛乳が入った容器を机の上に置いた。
「容器の周りに、水が集まっていく」
カエデは、浮かんでいる水の玉が、容器に集めっていくのを感心した様子で眺めた。
まるで、夢を見ているみたいだ。こんな光景、現実で見られるとは思わなかった。
「どう? 僕の力に驚いた?」
コテツは、自慢げな様子で、カエデのことを見る。
「あぁ、すごいぞ。まるで、宇宙空間の中に、水を流した時の光景と一緒だ」
「宇宙空間? なにそれ? まぁ、いいや。驚いたってことなら、それだけで充分」
コテツの能力による、浮かんだ水の玉は、牛乳が入った容器が冷えるまでの間、続いた。
「うん。良い感じに冷えている」
カエデは、牛乳が入っている容器を触ってみて、冷えているのを確認した。
「疲れたー」
コテツは、床の上に転がった。
「コテツ。ありがとうな。後は、俺に任せてくれ」
カエデは、牛乳が入っている容器をラップで包んでから、冷凍庫の中に入れた。
「カエデ。どれくらいかかるの?」
「そうだな。三時間以上かかるかもしれない」
「そんなに!?」
コテツは、カエデの言葉を聞いて、驚いた様子で起き上がった。
「アイスクリームだからな。明日、また来るか?」
コテツとアカネは、お互い目を合わせた。
「私、用事も済ませたいから、明日コテツを連れて来る」
「僕は、アカネ姉ちゃんの言う通りにするよ」
その日、俺達三人は一回解散した。
「アイスクリームはできたか!?」
次の日の夜。チャイム音が鳴り、玄関の扉を開けると、コテツが嬉しそうな表情で立っていた。
「できたぞ。昨日解散した後、数時間起きに容器の中に入っていた牛乳をかき混ぜていたからな。ムラも無く、ばっちりだ」
「楽しみ」
コテツの隣を見てみると、アカネも立っていた。
「早速、アイスを食べよう。二人共、家に上がって」
コテツとアカネは、カエデの誘いに乗り、家の中に上がる。
「コテツ。楽しみにしていたか?」
「もちろん! 昨日なんか寝る時、わくわくが止まんなくて、寝付けなかったんだから!」
コテツの、テンションが高い様子を見ると、よっぽど楽しみにしていたみたいだ。
「そうか、それは良かった」
居間に続く襖を開く。居間の中には、机の上に三枚の皿と三つのスプーンが置かれていた。
「皿とスプーンは用意してある。今から、冷凍庫の中にアイスを持ってくるから、アカネとコテツは、座って待っていてくれ」
「わかった」
「早く持って来て!」
カエデは、キッチンに向かい、冷凍庫の扉を開いた。冷凍庫の中には、ラップに包まれた黒い容器があった。
カエデは、器ごと取り出し、コテツとアカネがいる居間に向かう。
「持って来たぞ」
カエデは、コテツとアカネの前に、ラップに包まれた黒い容器を置く。
「水滴が凍っていて、中身が見えない」
アカネは、呟くように言う。
「早く開けて!」
コテツは、カエデの体を揺さぶるようにして言う。
「わかった。わかった」
カエデは、黒い容器を包んでいたラップを外した。
「こ、これがアイスクリーム!」
黒い容器の中には、真っ白なアイスクリームがあった。
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