第十九話「二つめの神器」
カエデは、天狗のジンライから、団扇を貸してもらった次の日、ばぁ様がいる妖亭に訪れていた。
「くぁ、くぁ、くぁ。ジンライから、天狗の団扇を貸してくれたかい。良かったじゃないか」
カエデの前に座っている、ばぁ様は大きな口を開けて笑っている。
「残り必要な神器は、二つです。二つの神器の一つ、『龍の角』が、どこにあるか聞きに来ました」
神器の一つである、『卑弥呼の鏡』は、ばぁ様が持っている。そう考えると、どこにあるかわかっていない神器は、『龍の角』だけだ。
「カエデ。そう急かすんじゃないよ。焦って結果を求めても、大した結果を得られないってもんさ」
ばぁ様は、カエデの前に飲み物を置く。
「これは?」
「ただのお茶さ。落ち着いて話す時は、お茶を飲むのが一番。楽しく飲むのがいいなら、酒を飲むのが一番だね。くぁ、くぁ、くぁ」
どうやら、今のばぁ様は、俺と話がしたいらしい。ばぁ様の要望に応えよう。
カエデは、ばぁ様に出された茶を飲んだ。
「カエデ。あの変わった実験好きの天狗から、天狗の団扇を貸してもらうなんて、なにをしたんだい?」
ばぁ様は、興味ありげな目で、カエデのことを見る。
「何って、管理人の仕事をしただけです。ジンライさんからの頼みを聞いて、それをこなしました」
「くぁ、くぁ、くぁ。妖怪の管理人らしい、解決方法だねぇ」
「もしかして、天狗の団扇を、貸してもらえなかったかもしれないのですか?」
ばぁ様の口調を聞く限り、まるで貸してくれない可能性があるような言い方だ。
「前に、ジンライと話したときねぇ。『いくら管理人だからって、よそもんに、大事な天狗の団扇を貸してあげるか』って言っていたもんだからねぇ。気になっていたのさ」
てことは、横柄な態度とか取っていたら、ダメだったってことか。社会人をやっていて、良かった。謙虚な態度が染みついていて、助かった。
「次からは、そういうことは、事前に言ってください。避けられる危険が、避けられなくなります」
「くぁ、くぁ、くぁ。悪かったねぇ。私も、カエデがどんな人物か、見極めたかったのさ。管理人にふさわしい男なのかね」
俺は、ジンライの依頼を通して、品定めされていたのか。
「妖怪が、怖くなりました」
「大丈夫さね。ジンライに気に入られたなら、人格は良いってことさ。そのままの性格で、管理人をやっていきな」
「妖怪が怖くなったのは、ばぁ様のせいですが」
「くぁ、くぁ、くぁ」
ばぁ様は、大声で笑った。
そろそろ、話したいことを話しただろうか。
「ばぁ様、龍の角の場所を教えてくれないでしようか?」
ばぁ様は、煙草を一本取り出して、火をつけた。
「龍の角がある場所は、青の池さ」
ばぁ様が、煙草の煙を吐くと、煙が空中で島の形になった。
こんな妖怪の能力もあるのか。
「この島は、霧島さね。私達がいる場所は、ここだねぇ」
ばぁ様は、煙草を吸い、煙を吐く。すると、さっきよりも詳細になった、地図が現れる。
「ここにある白い丸が、今いる所ですか?」
「そうさね。この妖街から出て、北に数十分歩いた先、そこそこの大きさがある湖がある。そこに、龍の角があるよぉ」
「湖に龍の角?」
カエデは、ばぁ様の発言に首を傾げた。
「くぁ、くぁ、くぁ。とりあえず行ってみることだぁ」
ばぁ様は、カエデの質問に笑いながら答えた。
「結局、龍の角がある湖が、何か教えてくれなかった」
カエデは、妖亭から出て、不満をこぼした。
「ん? カエデ?」
カエデの目の前で。多くの妖怪が歩いている中、一人の妖怪がカエデに話しかけてくる。
「アカネ」
カエデに話しかけて来たのは、化け猫のアカネだった。髪が少し長く、赤い着物を着て、首に赤い首輪をしている。
「妖亭の前で、なにしているの?」
アカネは、ここでカエデに会うと、思わなかったのだろう。表情には出ていないが、驚いている感じがする。
「豊穣祭って祭りに使う、三種の神器を集めているところなんだ。それで、これから龍の角を探しに行くとこで」
カエデが話していると、アカネはカエデに、どんどん近づいて来る。カエデは、あまりにも近づいて来るアカネに驚き、言葉を失う。
「手伝う」
「え?」
カエデは、アカネが言った言葉に疑問で返してしまう。
「手伝う」
アカネは、カエデの疑問に対して、一言で返す。
前から思っていたが、アカネは淡々と話すタイプの妖怪だ。できるだけ、余計な言葉を使わず、大事な所だけ言うタイプの妖怪。
「わ、わかった。龍の角がある湖まで、案内を頼んでもいいか?」
アカネは、カエデの要求に頷いた。
「ついてきて」
アカネは、カエデに背を向けて歩き始めた。
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