第十七話「帳簿に書かれていたこと」
「仏像の下の面に、帳簿がはめ込まれているなんて」
アカリは、仏像の下に埋め込まれた帳簿を見て、驚きの声をあげた。
「簡単に、取れそうだ」
カエデは、仏像の下にあった帳簿を取り出し、開いて見る。
「間違いない。書いてある内容は、ミハラさんが持っていた帳簿と同じだ」
「すごい発見だよ! 霧隠れ村の謎が一つ解けた」
アカリは、感動しているのか拍手をした。
「仏像を戻して、持ち帰ろう」
カエデとアカリは、仏像を元の位置に戻し、寺から出る。
「私、霧隠れ村に名前を残すことになるかもー」
アカリは、寺から出ると背筋を伸ばした。
「ついてきてくれなかったら、あの仏像をどかすことはできなかった。助かったよ」
カエデは、帳簿のページを一枚一枚めくってみる。
「ん?」
帳簿のページの隙間に、何回にも折りたたまれた長方形の紙を見つけた。
これは、時代劇とかで見る書状ってやつだ。
「ねぇ、カエデくん。もう帰らないと、間に合わないよね?」
「あ、あぁ。そうだな。もう、帰らないと日が暮れるな」
カエデは、帳簿に挟まっていた書状を、帳簿の中に戻した。
カエデとアカリは、旧霧隠れ村から離れ、霧隠れ村に向かった。
「行きは大変だったけど、帰りになると早く進んでいる気がするね!」
「帰りになって元気になっている。普通、逆じゃないか?」
アカリは、カエデよりも先に進んで行く。
「ほらほら、置いていくよー!」
行きとは、逆の立場だ。
カエデは、アカリの後を頑張ってついて行く。
「アカリ、足元気を付けろよー」
アカリが速く進む分には、行きより速く進むから、まぁいいか。
カエデとアカリは、順調に帰り道を進んで行く。
「あ! カエデくん。霧隠れ村が見えて来たよ!」
空が赤く染まった頃、アカリとカエデは霧隠れ村に辿り着いた。
「初めて、旧霧隠れ村に行けて良かった! ありがとう!」
アカリは、嬉しそうな表情をする。
「俺も、帳簿を見つけることができて良かったよ」
何も見つからないで、空振りに終わらず良かった。
「その帳簿って、今日持って行くの?」
「今日は、もう遅いし、明日にしようかな」
「わかった。今日は、ここで解散だね」
「ついてきてくれて、ありがとうな」
「こちらこそ、楽しかった! ありがとう!」
カエデとアカリは、霧隠れ村に辿り着いた所で、解散した。
「横になった瞬間、寝れそうだ」
カエデは、自分の家に帰り、座布団の上に座る。
「まさか、鎌倉時代の仏像が残っているなんてな」
しかも、あったのは木製の仏像だった。とっくに朽ちてもおかしくない。
「そういえば、寺も旧霧隠れ村の建物と比べると、全然老朽化している様子がなかった」
もしかしたら、寺があった周辺に関しては、特別な力があったのかもしれない。
「そんな、オカルト的な力が、あるわけ」
カエデは、そこまで呟いた瞬間、脳内に妖怪の姿を思い浮かんだ。
「もしかしたら、本当に、そんな力があるのかもしれない」
カエデは、妖怪を見た後、無いと思っていた存在が、存在している可能性があると思い始めていた。
カエデは、机の上に置いてあった帳簿を見る。
「そういえば、帳簿の中に手紙が入っていたな」
カエデは、帳簿を手に取った。
「見ていいよな?」
カエデは、帳簿を開いて、挟まっていた手紙を手に取る。
「鎌倉時代の書状。何が書かれているのだろう」
カエデは、深呼吸をしてから、手紙を開いた。
『奥州藤原氏が、鎌倉幕府によって滅んでから、数十年が経つ。私の寿命も終わりが見えて来たので、この書状を書き示すことにした。この書状を読んだ者は、鎌倉幕府に密告するのもよかろう。多額の報酬が得られるはずだ』
カエデの心臓が、鼓動を早める。
『私は、ミハラキリヨシと名乗っているが、これは偽名である。私の名前は、鎌倉幕府将軍である源頼朝の弟、源義経なり』
「源義経が生きていた……」
カエデは、歴史がひっくり返る事実を知り、驚愕する。
『子孫が源の姓を忘れないよう。「源」の字を二つに分け、「三原」と変えた。我が、情けないばかり、源を名乗ることができないですまない』
源義経による、謝罪の文が書かれている。
霧隠れ村で、寺の住職をしているミハラさんは、源義経の子孫なのか。
『霧が濃い日に、この霧島に我が忠臣と奥州藤原氏の残党及び、その家族。鎌倉幕府を恐れた少数の奥州の領民。総勢百名程度で、この島に逃げ、村を造った。それが、霧隠れ村の始まりである。私の大切な村だ。この村を潰すようなことは、しないでほしい』
これは、密告者が読んだ場合の願いなのだろう。
『最後に、我が死を偽装してくれた奥州藤原氏の一族に感謝をする。兄の頼朝は、奥州藤原氏を信用できず、滅ぼすという選択をとってしまった、愚行を許して欲しい。この霧島には妖怪という、変わった生き物が住んでいる。生活面での手助けをしてくれた、大切な仲間だ。争いが起こることもあるだろうが、命の奪い合いだけは、辞めて欲しい。なにかあれば、我が命により任命させた、妖怪管理人に相談すること。素晴らしき人生を送れたのは、霧隠れ村と妖怪による支え合いのおかげだ。ありがとう』
カエデは、書状を元の形に折りたたみ、書状を帳簿の中に戻した。
「とんでもないことを、知ってしまった気がする」
カエデは、放心状態のまま、仰向けに倒れた。
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