第十六話「寺の中にあったもの」

「大きい、お寺」


 アカリは、寺を、まじまじと見つめる。


「さっそく、寺の中に入ってみよう」


 どこかに、鍵がかかっている場所があるはずだ。


 カエデは、寺の周囲を見て回る。


「アカリ、あそこが入口みたいだ。南京錠がかかっている」


 カエデは、寺の扉に南京錠が、かかっている場所を見つけた。


「ここから、入れるんだね」


 カエデは、南京錠がかかっている扉の前まで行く。


「ちゃんと、鍵のロックが外れてくれよ」


 ミハラさんから、借りた鍵を寺の扉にかけられた南京錠の鍵穴に入れる。


「カエデどう? 外れそう?」


「鍵穴の形はあっている。ちょっと待って」


 長年放置されていた南京錠なだけあって、上手く鍵が回せない。あまり、力任せに回し過ぎると、鍵が折れてしまいそうだ。


 カエデは、慎重に鍵を開けようとした。


 ガチャ。


「あ、開いた!」


 何とか、南京錠のロックを外すことができた。


 カエデは、南京錠を取り除き、寺の扉を押してみる。


「開く」


 カエデは、アカリの方を向いた。


「うん。中に入ろう」


 アカリは、頷いて返事をする。


 カエデとアカリは、寺の中に足を踏み入れた。


「お邪魔しまーす」


 アカリは、寺の中に入ると挨拶をするが、誰からも返事がない。寺の中は薄暗く、視界が悪い。


「懐中電灯を点けよう」


 カエデは、上着のポケットから、手の平サイズの懐中電灯を取り出す。


「え、何その、可愛いサイズの懐中電灯」


 アカリは、カエデの取り出した懐中電灯をまじまじと見る。


「ムイン商品で買った、懐中電灯だよ」


 災害が、起きた時の避難用に買った、懐中電灯を持って来ただけで、特別な物ではない。


「ムイン商品って、家具から、お菓子まで何でも取り揃えているって言う、伝説の店!?」


「伝説?」


 そこまで珍しい店だったか? 俺が住んでいたアパートの近所にもあった。


「伝説だよ! 霧隠れ村の人がムイン商品に行ったって言えば、一日女の子に囲まれるんだから! 女子の憧れの店!」


 そんなに、すごい店だったのか。


「私が持っている懐中電灯なんて、ほら」


 アカリは、黄色の懐中電灯を取り出す。


 俺が持っている懐中電灯より、数倍以上の大きさをしている。探検家が持っているような、懐中電灯だ。


「俺の懐中電灯あげようか? 別に、アカリが持っている懐中電灯でも良いよ」


「さすがに申し訳ないよ。先に行こう!」


 カエデとアカリは、寺の中を進み始める。


「埃っぽくないな」


 歩けば、埃が舞うと思っていたが、埃っぽさを感じなかった。


「寺の中なのに、風が感じるね。どこか、穴が開いているのかな?」


 確かに、風が流れているのを感じる。だから、そんなに埃っぽさを感じなかったのか。


 カエデは、周囲を懐中電灯で照らしてみる。


「穴らしき破損は、見当たらない」


「何か、不思議な力を感じるね」


 旧霧隠れ村は、神秘的に感じた。その旧霧隠れ村にある寺の中は、埃がなく、どこからともなく流れる風がある。アカリが言っている通り、不思議な力を感じるな。


 カエデは、寺の奥の方に光を当ててみる。


 何かある。


 カエデは、光の先に何か物があるのを見つけ、目の前まで行ってみる。


「木彫りの仏像だ」


 光を当てた先にあったのは、人と同じ大きさをしている、木彫りの座っている仏像だった。


「本当だね。でも、仏像が置きっぱなしなのは、なんでだろう?」


 確かに、この仏像は、何で置いてあるんだ? 移転する時に、持って行かなかったのか?


「周囲を探してみよう。何かあるはず」


 木彫りの仏像が置いてあるのは、何か理由があるはずだ。


 カエデは、木彫りの仏像の周囲を探してみる。


「ねぇ、カエデくん。木彫りの仏像に、何か文字が彫ってあるよ」


 アカリは、木彫りの仏像の背中を指さした。


「今行く」


 カエデは、アカリの元に行く。


「えーと」


 カエデは、懐中電灯で、木製の仏像に彫られた文字を見てみる。


『初代ミハラ家住職作』


 初代ミハラ家? 初代ってことは……。


「この木彫りの仏像、鎌倉時代に作られた物だ」


「えぇー!? 私、素手で触っちゃった! どうしよう」


「俺も素手で、触った。何かあったら、俺も責任を負うよ」


「あ、ありがとう」


 初代ミハラ家住職が遺した仏像が残っているなら、寺の中に帳簿がある可能性が高い。


「何かしらの理由があって、置いて行ったのか。アカリ、寺の中をくまなく探そう」


「うん! わかった!」


 カエデとアカリは、帳簿を探しに、寺の中を捜索した。





「見つからなーい!」


 アカリは、床の上に倒れ込む。


「隙間とかも、全部探したのになかった」


 さすがに、俺も疲れたな。


 カエデも、床の上に座った。


「どこにあるんだろー」


 アカリは、顔だけ横を向かせて、カエデのことを見た。


「本当は、倉庫の中にありましたっていう、オチだけは嫌だな」


「それ、私も嫌ー」


 アカリは、ふてくされた表情になる。


「後どこを、探していないか」


 カエデは、もう一度周囲を照らしてみる。


 元々、移転時に物を持ち去った後だから、物自体がほとんどない。あるのは仏像や、壁に打ち付けてある棚ぐらいだ。


「カエデくん。もしかして、床下にあったりする?」


「俺も、寺の床下を考えた。でも、帳簿は、ミハラ家にとって家宝とも言える物だ。そんな大事な物を、地面に埋めることは」


 カエデは、木彫りの仏像を見ながら、硬直した。


「カエデくん?」


 アカリは、不思議そうな表情をして、カエデのことを見る。


 人間と同じ大きさの座っている仏像。もしかして……。


「アカリ、仏像を一緒に持ってくれないか?」


「え? うん。わかった」


 カエデは、アカリと一緒に木彫りの仏像を持ち上げる。


 仏像の下には、何もない。いや、霧島に隠れ住んだ当時の住職を含め、住民たちは警戒心の塊だったはずだ。


「アカリ。仏像を横にさせてくれ」


「横に?」


 カエデとアカリは、慎重に仏像を横にさせた。


 俺の予測が正しければ、仏像の下の面にあるはず。


 カエデは、仏像の下の面を懐中電灯で、照らす。


「あ!」


「俺の予想通りだ」


 仏像の下の面には、帳簿らしき物が埋め込まれていた。





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