第十五話「旧霧隠れ村」

「カエデくん。進むのが速いー」


 振り向くと、アカリが獣道を歩くのに苦戦していた。


「すみません。もう少し、ゆっくり歩きます」


 雲寺の住職であるミハラさんから、鍵を貰った次の日。旧霧隠れ村に、カエデが向かおうとしたら、玄関前に冒険家みたいな服装を着たアカリがいた。


『霧島に来たばかりの人が、森を抜けて旧霧隠れ村に向かうのは危険だよ! 私が、旧霧隠れ村まで、案内するから!』


 なかば、強引に俺ついてきたアカリだったが、結果はご覧の通りである。


「まぁ、一人で行くのは寂しかったから、ついてきてくれて良かったけど」


「カエデくん。なんか言ったー!?」


「あ、なんでもない! 少し進んだら休憩しましょう!」


「やったー!」


 アカリは、両手をあげて喜んだ。


 カエデとアカリは、少し進んだ先に、休憩できそうなスペースを見つけ、そこで休憩をとることにした。


「髪をまとめておいて、良かったー。結ばないで、ボブのまま行ったら、いまごろ頭に草と枝が付いていたよ」


 アカリは、茶色の帽子を取る。髪を一つにまとめて、ポニーテールにしていた。


「そういえば、俺が旧霧隠れ村に向かうって、シライシ村長から聞いたのですか?」


「うん! カエデくんが持っている地図は、村長に頼まれて、私が用意したやつなんだよ」


 カエデは、自分が持っていた地図を見る。


 昨晩、シライシ村長が届けにきた地図。この地図は、アカリさんが用意してくれた地図なのか。


「ありがとう」


「いえいえ、私も旧霧隠れ村に行ってみたくて、ついてきたから」


「アカリさんは、旧霧隠れ村に行ったことがないの?」


「うん。旧霧隠れ村には、行ったことがないんだ。男の子なら、度胸試しで行った人はいるんだけどね。私は興味があったけど、行くのが怖かった。へへへ」


 アカリは、頭を掻きながら苦笑いをした。


「シライシ村長が言うには、朝から行けば、昼に旧霧隠れ村について、日が暮れるまでに霧隠れ村に帰れるらしい。もう少し休憩したら、歩き始めよう。もうすぐで、旧霧隠れ村に着くはずです」


「うん。 わかった」


 アカリとカエデは、しばらく休憩して、旧霧隠れ村に向かって出発した。





 霧隠れ村から出て、数時間経った。


「地図通りなら、この辺りのはず」


 カエデは、周囲を見渡してみる。


「カエデくん! あれじゃない!?」


 何かを見つけたのか、興奮気味なアカリは、指をさしながら言う。


「家?」


 アカリが指さしていたのは、木造建ての家だった。


 廃墟化した家っぽいな。遠くから見ても、家が傾いているのがわかる。


 カエデとアカリは、廃墟化した家に近づいてみる。


「すごい古そうな家だね」


「老朽化で家が傾いている。中に入るのは、危険そうですね。倒壊に巻き込まれる可能性があります」


 カエデは、廃墟化した家を通り過ぎて、その先の景色を見てみる。


「アカリさん。あれ」


「何? あ!」


 カエデとアカリの視界の先には、廃墟化した家が複数立ち並んでいた光景だった。森の中に立ち並ぶ家は、目立たないように自然に溶け込むよう形で、造られているのがわかる。


「これが、隠れ里だった旧霧隠れ村」


「すごい。自然の中に溶け込める家を造るなんて、おとぎ話に出て来る光景みたい」


 アカリは感動したように、旧霧隠れ村を眺める。


「廃寺を探しましょう」


 カエデとアカリは、旧霧隠れ村の中に入った。





「家は、あるけど、物とかは見当たらないね」


 アカリは、廃墟化した家々を眺めながら言う。


「旧霧隠れ村は、移転で今の霧隠れ村に移動した。持てる物は、移動する時に全部持って行ったのだと思います」


「なるほどね。廃墟って聞くと物が、そのまま置いてあって散乱しているイメージだった私」


「テレビ番組とか見ると、そういう廃墟とか多いですね。それにしても、霧隠れ村の先祖は、本当に逃げる感じで、この霧島に来たのがわかる」


 本土から少し離れている、この霧島で、森の中に溶け込んで住む徹底ぶりは、この廃墟を見るだけでわかる。


「シライシ村長が良く言っていたよ。『わしらの先祖は、鎌倉幕府と戦い敗れ、この地に命からがら逃げた奥州藤原氏の末裔なのじゃ』って、私は歴史苦手だから、よくわかんないけどね」


 鎌倉幕府と戦ったってことは、今の日本政府と戦ったことと同じだ。


 カエデは、周りにある廃墟を眺める。


「昼間中に廃寺を見つけましょう。周りを探してみます」


「うん」


 カエデとアカリは、周りを探索する。


「ん? あれは?」


 廃墟化した家々から、少し離れた場所に木々に紛れて、何か建築物がある。


「あれは……鳥居かも」


 アカリは、目を細めて木々に紛れた建築物が、鳥居だと見抜いた。


「あそこに、寺があるかもしれない」


 鳥居は、寺と一緒にあるとされている建築物の一つ。あの近くに、寺がある可能性が高い。


 カエデとアカリは、鳥居に近づいて行く。


「すごい、ここだけ道が、石で舗装されている」


 アカリは、石で舗装された道を歩く。


「旧霧隠れ村にとっては、この先にある建物が重要な場所だったのだと思います」


 カエデは、鳥居の前まで辿り着く。


「石で造られた鳥居だ」


 苔やツルが付いていて、古びているように見えるが、立派な造りをしている。


「この先には、何があるんだろう?」


 アカリとカエデは、鳥居をくぐり、先に進む。


 進んで行くと、そこには、霧隠れ村の寺より一回り大きい寺が建っていた。

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